目次
第1章 中秋節の起源と共通点
中秋節の起源は中国にさかのぼります。古代中国では、月は豊穣や繁栄の象徴とされ、農耕社会においては月の満ち欠けと人々の生活が密接に結びついていました。特に旧暦8月15日の満月は、一年で最も明るく美しいとされ、その日に感謝や祈りをささげる風習が自然に生まれました。
記録としては唐代(7世紀〜10世紀)に中秋節の祝祭が定着し、宋代(10世紀〜13世紀)には民間でも広く楽しまれる行事へと発展していったといわれています。当初は宮廷行事として月を鑑賞する文化が広まり、のちに庶民の間に広がったことで「家族で月を眺め、団らんする日」として定着しました。
共通するテーマは大きく3つあります。
- 月の鑑賞:満月を眺め、その美しさを楽しむこと。
- 収穫への感謝:秋の実りを祝う意味合いが込められている。
- 家族団らん:離れて暮らす家族もこの日は集まることを大切にする。
こうしたテーマは中国から周辺地域へ伝わり、台湾や韓国、日本においても形を変えながら根付いていきました。日本の「十五夜」も、平安時代に中国から伝わった観月の風習が起源とされており、アジア各国に共通する「自然と調和し、家族とともに祝う」という精神が息づいています。
第2章 中国の中秋節
中国における 中秋節(Zhōngqiū Jié/中秋节) は、春節(春节)、国慶節(国庆节)と並ぶ三大祝日のひとつであり、国民にとって非常に大切な行事です。法律で定められた祝日で、毎年1〜3日の連休となることが多く、多くの人が帰省して家族や親族と過ごします。
食文化:月餅(Yuèbǐng/月饼) の多様化

中秋節といえば、やはり「月餅」です。丸い形には「満月=家族の円満」という意味が込められ、親しい人や取引先に贈る習慣が根付いています。伝統的な味としては、蓮の実あん 蓮蓉(Liánróng/莲蓉)、ナッツやドライフルーツを詰め込んだ 五仁(Wǔrén/五仁) が代表的です。近年は、アイスクリーム月餅や低糖質タイプ、さらにはスターバックスや高級ホテルのオリジナル月餅など、若者向けの新しいスタイルも次々と登場しています。
贈答文化
中秋節は「贈り物のシーズン」としても知られます。企業や役所では、従業員や取引先に豪華な月餅セットを贈ることが一般的で、ビジネス上の人間関係を深める重要な機会にもなっています。この時期の月餅市場は巨大で、中国の消費文化を象徴する存在となっています。
祝祭イベントとテレビ番組
都市部では、中秋節に合わせて観光地や広場で大規模なイベントが開催されます。満月を背景にしたライトアップや花火、ランタンが街を彩り、多くの市民や観光客が集まります。
さらに、この日に欠かせないのが、テレビの特別番組 中秋節晩会(Zhōngqiū Jié Wǎnhuì/中秋节晚会) です。これは中国中央電視台(CCTV)が毎年放送する「大型祝祭ショー」で、歌謡番組やバラエティ特番のような位置づけにあたります。人気歌手や俳優、舞踊団が登場し、音楽・舞踊・伝統芸能・寸劇などを披露。内容は「家族の団らん」「故郷への思い」をテーマに構成されており、春節の「春晩(Chūnwǎn/春节联欢晚会)」に次ぐ国民的テレビイベントとして、毎年数億人が視聴すると言われています。
このように、中国の中秋節は家族団らんの場であると同時に、贈答・経済活動・大規模イベント・テレビショーを通じて「社会的なつながり」を強調する行事となっています。
第3章 台湾の中秋節
台湾における 中秋節(Zhōngqiū Jié/中秋節) は、中国と同じく旧暦8月15日にあたり、国の公休日として定められています。家族が集まり、月を眺めながら過ごす大切な日であると同時に、台湾ならではの独自文化も色濃く残っています。
食文化:月餅と文旦
台湾でも中秋節といえば「月餅(Yuèbǐng/月饼)」が欠かせません。伝統的な甘いあん入りに加え、塩漬けアヒル卵の黄身(鹹蛋黄 Xián dàn huáng)を丸ごと入れた「蛋黄蓮蓉月餅(Dànhuáng Liánróng Yuèbǐng/蛋黄莲蓉月饼)」も人気です。黄身を満月に見立てており、「円満」や「豊穣」を象徴する縁起物として、中国本土と同じく台湾でもよく食べられています。
さらに台湾独特の贈答品としては「文旦(Wéndàn/文旦)」と呼ばれる大型の柑橘類があります。皮をむいて月の形を思わせるように食べる習慣があり、こちらも「満月=家族の円満」と結びつけられています。
独自の文化:バーベキュー

台湾の中秋節を語る上で欠かせないのが「バーベキュー」です。1970年代に大手しょうゆメーカーが「中秋節にはバーベキューをしよう」というテレビCMを放送したのがきっかけで広まり、今では国民的な習慣として定着しました。その盛んさから、中秋節は「烤肉節(Kǎoròu Jié/バーベキュー節)」と呼ばれることもあります。
ただし、あまりにも多くの人が同時に炭火を使って焼肉をするため、大気汚染や近隣トラブルが社会問題になったこともありました。過去には台湾当局が「環境保護のためにバーベキューは控えてほしい」と呼びかける声明を出したほどです。それでも国民の間では「やっぱり中秋節はバーベキュー!」という意識が根強く、毎年多くの人が河川敷や公園に集まって煙を上げています。
現代の過ごし方
近年の台湾では、伝統的な月餅や文旦を贈り合う風習に加えて、スタイリッシュなパッケージや新しいフレーバーの月餅を販売するブランドも増えています。特に台北など都市部では、若者や企業が高級感のあるギフトセットを選ぶ傾向が強く、一方で地方では家族団らんやバーベキューといった伝統的な過ごし方が色濃く残っています。
台湾の中秋節は、「贈り物」と「バーベキュー」というユニークな組み合わせが特徴で、庶民的で現代的な楽しみ方が魅力です。
第4章 韓国の秋夕(チュソク)
韓国では中秋節と同じ旧暦8月15日に「秋夕(Chuseok/추석)」と呼ばれる祝日があり、旧正月(ソルラル)と並ぶ二大名節のひとつとされています。韓国のカレンダーでは3日間の連休が設定され、多くの人々が帰省して家族と過ごすため、大規模な民族大移動が発生します。日本のお盆休みにも似た光景ですが、規模の大きさでは世界最大級ともいえるでしょう。
食文化:松餅(ソンピョン)
秋夕を代表する食べ物は「松餅(Songpyeon/송편)」と呼ばれる餅です。松の葉を敷いて蒸した半月型のお餅で、中にはゴマ、栗、豆、ゴマ油で和えたごま塩などが詰められています。もちもちとした食感と松の香りが特徴で、秋夕に家族で松餅を作ること自体が大切な行事となっています。
行事:祖先供養と墓参り
秋夕は「祖先をまつる日」という意味合いが強く、伝統的には家族が集まり、祖先に食べ物を供える祭祀(チェサ)を行います。さらに先祖の墓を訪れて掃除をしたり、墓前で儀式をするのも一般的です。こうした供養や墓参りを通じて「家族のつながり」や「ルーツを大切にする心」を確認する日でもあります。
贈答文化と現代的な特徴
秋夕は贈り物をする習慣も盛んで、スーパーやデパートには秋夕向けのギフトコーナーが設けられます。定番は果物や高級牛肉、韓国海苔、そしてユニークなものとしてはスパムの缶詰セットが人気です。これは保存が利き、誰に贈っても使いやすい実用的なギフトとして定着しました。
近年では若者世代を中心に、伝統的な行事にフル参加する人は減りつつある一方、連休を利用して旅行に出かけたり、簡略化した形で祖先供養を行う家庭も増えています。それでも「家族が集う日」という根本的な意味合いは今も変わっていません。
第5章 日本の十五夜(中秋の名月)
日本では中国から伝わった観月の風習が平安時代に定着し、旧暦8月15日の夜を「十五夜」あるいは「中秋の名月」と呼んで月を鑑賞する文化が生まれました。中国や韓国のように公休日にはなっていませんが、秋の風物詩として今も親しまれています。
食文化:月見団子と里芋
十五夜といえば「月見団子」を供える習慣が有名です。白く丸い団子を満月に見立てて積み上げ、豊作や家族の健康を祈ります。また、古くは収穫祭の意味合いが強く、芋を供えることから「芋名月」とも呼ばれていました。地域によっては枝豆を供える「豆名月」、栗を供える「栗名月」など、農作物にちなんだ呼び方もあります。
飾りと風習
月見の際にはススキを飾るのが一般的です。ススキは稲穂に似ており、収穫を象徴する植物とされるためです。また、魔除けや来年の豊作祈願の意味も込められています。月を鑑賞するだけでなく、自然の恵みに感謝し、秋の実りを祝う日として位置づけられてきました。
現代の十五夜:イベントと商業文化
現代の日本では、十五夜に合わせて観月イベントが各地で行われています。京都の清水寺や奈良の大仏殿では観月祭が開かれ、音楽や舞の奉納とともに名月を楽しむことができます。また、横浜中華街や池袋など都市部でも「中秋節」と連動したイベントが開催され、アジア各国の文化を体験できる場として人気を集めています。
さらに日本独自の現代文化として、飲食業界の「月見メニュー」があります。マクドナルドの「月見バーガー」や「てりたまバーガー」、ケンタッキーの「月見チキンフィレサンド」など、この時期になると“卵=満月”をモチーフにした限定商品が登場し、秋の風物詩として定着しました。家で団子を供える人が少なくなった現代でも、こうした商品を通じて“十五夜気分”を味わう人が多いのも、日本らしい特徴といえるでしょう。
日本の十五夜は「自然への感謝」「季節感の楽しみ」に根差しつつ、現代では商業的・エンターテイメント的な側面も加わり、独自の発展を遂げています。
第7章 比較表
中秋節・秋夕・十五夜は、同じ旧暦8月15日に行われる行事ですが、地域ごとに呼び方や食文化、社会的な意味合いが異なります。以下に特徴を整理しました。
| 項目 | 中国 | 台湾 | 韓国 | 日本 | 世界(例) |
|---|---|---|---|---|---|
| 呼び方 | 中秋節(Zhōngqiū Jié/中秋节) | 中秋節(Zhōngqiū Jié/中秋節) | 秋夕(Chuseok/추석) | 十五夜(中秋の名月) | Mid-Autumn Festival |
| 主な食べ物 | 月餅(Yuèbǐng/月饼)|蓮蓉・五仁・蛋黄入り | 月餅(Yuèbǐng/月饼)|文旦・蛋黄入り | 松餅(Songpyeon/송편) | 月見団子・里芋(芋名月) | 月餅・ランタン菓子 |
| 独自文化 | 贈答文化・ライトアップ・CCTV晩会 | バーベキュー(烤肉節)・文旦 | 祖先供養・墓参り・民族大移動 | ススキ飾り・観月祭・月見バーガー | 灯籠行列・ランタンフェス |
| 休日 | 1〜3日 | 1日 | 3日以上 | なし | 国ごとに異なる |
| 社会的意味 | 家族団らん+ビジネス贈答 | 家族団らん+庶民的娯楽 | 家族団らん+祖先供養 | 自然への感謝・季節感 | 多文化交流・観光資源 |
第8章 現代的な広がり
中秋節は古代からの伝統行事でありながら、現代においては新しい形で広がり続けています。家族団らんや収穫への感謝といった本来の意味を保ちながらも、グローバルな文化や商業活動と結びつくことで、かつて以上に注目される行事となっています。
ブランドとのコラボレーション
スターバックスや高級ホテル、ラグジュアリーブランドは毎年、中秋節限定の月餅やギフトセットを販売しています。シンプルな菓子であった月餅が、デザイン性やブランド力をまとった高級ギフトとして人気を集めており、贈答文化がさらに多様化しています。特に中国や台湾では「誰に、どんな月餅を贈るか」がビジネスマナーの一部として扱われるほどです。
SNSとポップカルチャー
近年はSNSの普及により、K-POPアイドルや中国・台湾のインフルエンサーが「中秋節おめでとう」のメッセージや写真を発信するのが定番になりました。韓国の秋夕では、アイドルグループが韓服姿で挨拶動画を投稿し、中国では人気俳優が中秋節晩会に出演するなど、伝統文化とエンターテインメントが融合しています。
日本における広がり
日本でも横浜中華街や池袋チャイナフェスティバルで中秋節イベントが開催され、中国や台湾の文化を体験できる場として人気を集めています。また、飲食業界では「月見バーガー」「てりたまバーガー」などが秋の定番商品として定着し、商業的な意味でも「月を祝う文化」が生活の中に息づいています。
観光資源としての中秋節
シンガポール、マレーシア、オーストラリアなどでは、ランタンフェスティバルが観光客を呼び込む重要なイベントになっています。特にシドニーのダーリングハーバーで開催される大規模なランタン祭りは、地域の観光資源として世界的にも有名です。
このように、中秋節はアジアにとどまらず、現代のライフスタイルや観光、商業活動と融合しながら、国際的な文化フェスティバルへと発展しているのです。
第9章 まとめ
中秋節(Zhōngqiū Jié/中秋节)は、古代中国で生まれた「月と収穫を祝う行事」が起源となり、時代とともにアジア各地、さらには世界へと広がっていきました。
中国では月餅や贈答文化を中心に「社会的なつながり」を強調し、台湾では「烤肉節」と呼ばれるほど盛んなバーベキュー文化が加わりました。韓国の秋夕(Chuseok/추석)は祖先供養や帰省が中心で、日本の十五夜は月見団子やススキを通じて「自然への感謝」を表現します。そして世界の華僑・華人コミュニティでは、ランタンフェスティバルや子どものための祭りとして定着し、多文化交流の場として発展しています。
共通しているのは「月」「家族」「収穫」というテーマです。形は違っても、どの地域でも人々は月を眺め、大切な人と時間を分かち合い、自然の恵みに感謝しています。
現代ではブランドとのコラボレーションやSNSでの発信、商業的なイベントなど、新しい要素も加わっていますが、その根底には「人と人をつなぐ日」という普遍的な価値があります。
2025年の中秋節は9月6日。皆さんも空を見上げて月を眺めながら、家族や友人との絆、そして季節の移ろいを感じてみてはいかがでしょうか。


