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【実例で解説】中国の死刑制度とは?俳優・張芸洋の事件をきっかけに考える

有名俳優 張芸洋(Zhang Yiyang)に下された“死刑判決”──中国の「正義」とは何か?

2025年、中国国内外のメディアを揺るがす衝撃的なニュースが報じられました。俳優・歌手として活動していた張芸洋(Zhang Yiyang)が、未成年の恋人を殺害した罪で死刑判決を受け、銃殺刑に処されたのです。

張芸洋は、SNSやオーディション番組などをきっかけに知名度を上げた若手の芸能人で、音楽活動を行う一方、地方のテレビ番組やネット配信作品などにも出演。中国国内の若年層を中心に一定の人気を集めていました。今後の活躍が期待されていた中での凶悪事件と死刑判決に、ファンのみならず多くの国民が驚きを隠せませんでした。

社会的影響力を持つ有名人に対して極刑が科され、しかも迅速に執行されたという事実は、法の厳格さを示す一方で、中国の司法制度が持つさまざまな問題点も浮き彫りにしました。

中国国内では「当然の結果」「見せしめとして妥当」と支持する声が多く見られましたが、国際社会からは死刑制度そのものの是非、そしてその運用の透明性の欠如について改めて厳しい視線が注がれています。

中国は現在も世界で最も死刑を多く執行する国のひとつであり、法の適用範囲の広さ、裁判の非公開性、執行件数の非公表といった点が、長年にわたり国際的な懸念の対象となってきました。

    今回の芸能人への死刑判決は、まさにこうした中国の死刑制度の現実を象徴する事件だったといえます。

    本記事では、まず事件の詳細を紹介し、その後で中国の死刑制度の仕組み、法的根拠、国際的な批判、そして統治モデルとの関係性について掘り下げていきます。

    事件の概要と社会的反響

    俳優・張芸洋(Zhang Yiyang)の殺人事件

    2022年2月26日、俳優・歌手として活動していた張芸洋は、自身の誕生日を口実に、未成年の恋人(当時16歳)を陝西省咸陽市郊外の森林へと誘い出し、折りたたみナイフで首元を複数回刺して殺害しました。動機は「別れ話を切り出されたことへの逆上」とされており、事件には明確な計画性があったと指摘されています。

    犯行後、張は遺体の衣服や携帯電話を処分しようとするなど、証拠隠滅を図ったことも裁判で明らかになりました。

    裁判と死刑判決

    2023年12月18日、陝西省咸陽中級人民法院は死刑判決を言い渡し、その日のうちに銃殺刑が執行されました。張側は控訴しましたが、上級審で棄却され、死刑が確定。判決から時間が経過した2025年7月に、初めて広く世間に知られることとなりました。

    中国社会・メディアの反応

    中国国内では「法の下の平等が貫かれた」として、おおむね肯定的な反応が多く見られました。SNSやニュースコメント欄では、「どんなに有名でも、未成年を殺せば死刑は当然」といった声が広がり、国家の厳罰姿勢を評価する意見が主流となっています。

    一方、芸能人が死刑に処されるという前代未聞の事態に、国内外のメディアも大きく反応。中には、「見せしめ的ではないか」「国家が芸能界を統制しようとしているのでは」といった疑念を呈する報道もありました。

    中国の死刑制度とは?──法律条文から読み解くその実態

    中国の死刑制度は、厳格な法体系のもとに運用されています。世界でも最多クラスの死刑執行国とされる中国では、どのような犯罪に死刑が適用され、どのように執行されているのでしょうか?本章では、中国刑法・刑事訴訟法に基づいた制度の実態を整理します。

    死刑を定める法律と基本的な考え方

    中国の死刑制度は「中華人民共和国刑法」に基づいています。刑法第48条には、「死刑は罪行が極めて重大な犯罪に対してのみ適用される」と明記されており、特に悪質で社会的影響が大きい犯罪に限定して科すべきとされています。

    さらに、刑法第49条では、犯罪時に18歳未満だった者、および裁判時に妊娠している女性には死刑を適用しないことが定められています。これは人道的な観点から例外規定として設けられているものです。

    死刑の対象となる犯罪

    中国ではおおよそ42〜68種類の犯罪に死刑が適用可能とされており、その範囲は広範です。主な対象犯罪は以下の通りです。

    ・計画的な故意殺人
    ・麻薬の大量製造・販売・密輸
    ・未成年への強姦など悪質な性犯罪
    ・爆発、放火、列車転覆などの公共安全を脅かす行為
    ・国家分裂やスパイ行為などの政治的犯罪
    ・巨額の収賄や横領など、国家経済に打撃を与える汚職犯罪

    これらのうち、麻薬と汚職に対する死刑適用は近年も多く、治安維持や政治的メッセージとしての意味合いも強いとされています。

    死刑の執行方法

    中国における死刑の執行方法は主に以下の2つです。

    ・銃殺刑(従来型、主に地方都市で用いられる)
    ・薬物注射(より「人道的」とされ、都市部で主流化)

    刑事訴訟法ではこれらの方法を正式に規定しており、執行後には家族への通知や、必要に応じて遺体の引き渡しも行われます。

    中国独自の制度:「死刑緩期2年」

    中国の死刑制度には独特な仕組みがあります。それが「死刑、執行猶予2年(緩期2年)」という制度です。

    これは一種の執行猶予付き死刑であり、刑法第50条に基づいて運用されています。判決としては「死刑」ですが、2年間の猶予期間中に服役態度や反省の程度が良好であれば、無期懲役や有期懲役(15年以上〜20年以下)に減刑される可能性があります。

    一方で、この期間中に再犯や重大な規律違反があった場合、最高人民法院が死刑執行を最終的に決定します。この制度は、厳罰主義の中に一定の「更生」の余地を残すものであり、実際には多くの死刑判決がこの形で言い渡されています。

    最終決定権は最高人民法院に

    2007年以降、中国ではすべての死刑判決に対し、最高人民法院の審査と承認が義務付けられています。これは、過去に発生した冤罪による死刑執行が社会問題化したことを受けて導入された制度です。この改革により、地方裁判所での死刑判決がそのまま執行されることはなくなり、必ず中央レベルでの最終確認が必要とされています。ただし、審査の基準や過程は公開されておらず、国際人権団体からは透明性の欠如として批判されています。

    国際社会から見た中国の死刑制度──批判と孤立の現実

    中国の死刑制度は、国内では「法治と秩序の維持」として広く受け入れられている一方で、国際社会では深刻な人権問題として繰り返し批判されています。とりわけ、死刑の適用範囲の広さ、執行件数の多さ、そしてその“秘密主義”が問題視されています。

    世界の潮流:死刑廃止が主流に

    国際的には、死刑制度そのものを廃止する国が年々増加しています。2024年時点で、法律上または事実上死刑を廃止している国は140か国を超え、死刑存置国は世界の約3割以下にまで減少しました。

    欧州連合(EU)では死刑廃止が加盟条件となっており、アフリカやアジアでも制度見直しの動きが活発です。こうした中で、中国は北朝鮮、イラン、サウジアラビア、エジプトなどと並び、いまだに多数の死刑を執行する国家として特異な存在となっています。

    「死刑大国」としての中国

    国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの報告では、中国は毎年最も多くの死刑を執行している国とされます。とはいえ、正確な執行件数は国家機密とされており、実態は把握困難です。

    報道機関やNGOによる推定では、年間数千件に上る可能性があるともいわれており、この「情報の不透明さ」こそが、国際的な信頼を損なう大きな要因とされています。

    透明性の欠如が招く批判

    中国では、死刑判決やその執行に関する詳細が公式にはほとんど公開されません。裁判の非公開性、家族への連絡の遅延、上訴プロセスの曖昧さなども含めて、手続き的正義の欠如が国際社会から強く批判される点です。

    特に、政治犯や思想犯と見なされるケースで死刑が適用されることがある点については、「法の支配」ではなく「政権の都合で人命が左右されている」との見方もあります。

    日本との違い:量と透明性の対比

    日本も死刑制度を維持している国の一つですが、毎年の執行数は1桁〜10件程度にとどまっており、手続き面では比較的慎重な運用がされています。公開性や記者会見なども最低限担保されており、中国との最大の違いはその「数」と「透明性」にあるといえるでしょう。

    中国では、殺人だけでなく麻薬や経済犯罪、時には「国家に危害を加えた」とされる行為にも死刑が適用されうるため、適用範囲の広さにも懸念が向けられています。

    中国の立場と論理

    こうした国際的批判に対し、中国政府は一貫して「各国にはそれぞれの法制度がある」「中国の国情に合った法の運用を行っている」と反論しています。つまり、治安維持や社会秩序の安定を最優先に考えた結果の制度運用だという立場です。

    さらに、世論調査では多くの中国国民が「死刑は必要」と考えているとの結果もあり、政府は**「国民感情に即した判断」**として制度の正当性を主張しています。

    芸能人への死刑判決は“見せしめ”なのか?──国家と世論のバランス

    2025年に死刑が執行された俳優・張芸洋(Zhang Yiyang)の事件は、単なる殺人事件の枠を超え、中国社会に大きな波紋を広げました。特に注目されたのは、「有名人であっても容赦しない」という中国当局の姿勢です。果たしてこの判決は、社会正義の貫徹なのか、それとも体制維持のための“見せしめ”だったのでしょうか?

    著名人に対する厳罰の傾向

    中国では近年、芸能人やインフルエンサーといった“社会的影響力のある人物”に対して、極めて厳しい処分が下されるケースが相次いでいます。

    脱税やスキャンダルによって活動停止に追い込まれた有名人の例も数多く、今回はそれが「死刑判決」という最も重い形で現れたかたちです。

    このような動きは、一部で「権力への挑戦や秩序破壊を抑え込むための象徴的措置」と解釈されています。

    「平等な法の下の処罰」か、「体制維持の演出」か?

    政府側は、「誰であっても、法の前では平等である」という原則を強調しています。実際、多くの中国市民も今回の判決について、「有名人であっても特別扱いされないことは評価できる」と支持する声を上げました。

    しかしその一方で、死刑の執行タイミングや発表時期に疑問を抱く声もあります。例えば:

    ・2023年末に死刑判決と執行
    ・しかし報道や世間への公開は2025年7月になってから
    ・その間、当局の公式発表はほぼなし

    こうした“情報コントロール”とも取れる対応は、「国家が意図的にタイミングを操作し、見せしめとして利用しているのでは」という憶測を呼びました。

    ネット世論との「共犯関係」

    中国の司法制度は政府主導である一方、ネット世論とのバランスも重視される傾向があります。特に若年層のSNS利用率が高まる中、「人民の怒りに応えるかたち」で厳罰が選択されるケースもあります。

    今回の事件も、未成年者が犠牲になったことからSNS上では激しい非難が巻き起こり、いわば**「死刑以外は許されない」空気**が形成されていました。

    このような状況の中で、国家が「世論の期待に応えたかのように」死刑を執行する姿勢は、ある意味で社会的満足感を意図した演出であるとも言えるでしょう。

    中国の統治モデルにおける死刑の役割

    中国では、秩序と安定を最優先する統治モデルが確立されています。その中で死刑制度は、「反社会的行為に対する断固たる制裁」として利用される傾向があり、今回のような著名人に対する厳罰も、国民に対する“警鐘”としての意味合いを持っていると考えられます。

    つまり、死刑は単なる刑罰ではなく、「統治の一部」である――この認識が、中国における死刑制度の根底にあるのかもしれません。

    まとめと今後の展望:中国の死刑制度は変わるのか?

    俳優・張芸洋に対して下された死刑判決とその即時執行は、中国の司法制度における「厳罰主義」の一端を象徴する出来事でした。芸能人という社会的影響力の高い立場にあった人物にさえ例外なく死刑が科されることで、中国政府は「法の前の平等」を強調しつつ、社会への強いメッセージを打ち出したといえるでしょう。

    しかしこの事例を通して見えてきたのは、単なる刑罰としての死刑以上の、政治的・社会的な“統治手段”としての死刑制度の側面です。世論と司法のあいだ、国内の安定と国際的な批判とのはざまで、中国の死刑制度は依然として複雑な立場にあります。

    死刑制度の今後の行方

    中国政府は近年、「死刑の慎重適用」を掲げる一方で、依然として広範な犯罪に死刑を適用できる状態を維持しています。麻薬犯罪や汚職事件に対しては今後も厳罰路線が続くと見られますが、制度改革や透明性の向上については明確な進展が見られないのが実情です。

    一方、国内世論は「死刑賛成」が多数派であり、国際社会が求める「死刑廃止」への道のりは依然として遠いといえるでしょう。

    日本人として何を考えるべきか

    日本もまた死刑制度を持つ国の一つとして、単に「中国は人権後進国だ」と批判するだけでなく、自国の制度と比較しながら「死刑とは何か」「正義とは何か」を問い直す必要があります。

    張芸洋事件は、その残酷さや被害者の若さが注目された一方で、司法がどこまで政治的・世論的な圧力を受けずに運用されているのかという点で、多くの示唆を与えてくれます。

    中国の死刑制度は今後どう変わるのか。あるいは、変わらないまま“国家の意思”を体現し続けるのか。そのゆくえを見守ると同時に、私たち自身もまた「命と罰」のあり方について、深く考えていくべき時期に来ているのかもしれません。

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