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中国で相次ぐニトリの閉店報道──なにが起きているのか?
2025年、中国のSNSや経済ニュースで突如として話題となったのが、**「ニトリの大量閉店」**という衝撃的なニュースでした。中国市場に進出して約10年、じわじわと店舗数を拡大してきたニトリが、ここにきて主要都市を含む複数店舗を次々に閉鎖。ネット上では「まさかの撤退か?」「ニトリ、終わったのか?」といった声が噴出し、メディアや投資家、そして消費者の間でも注目が集まりました。
特に注目されたのが、2025年1月、上海淮海中路にある旗艦店の閉店です。淮海中路といえば、上海でも有数のショッピングストリート。ニトリが「中国におけるブランドの顔」として大々的に展開していた大型店であり、その閉店は象徴的な意味を持って受け止められました。実際、澎湃新聞(The Paper)や観察者網など複数の中国メディアがこれを報じ、「店舗の大量閉鎖は経営不振によるものではないか」と分析を交えつつ取り上げました。
Weibo(微博)では、「#ニトリ中国撤退#」というハッシュタグが立ち上がり、一時は検索ランキングの上位に浮上。あるユーザーは「最近ニトリで買ったばかりなのに…返品はどうなるの?」と投稿し、また別のユーザーは「日本の家具は悪くないけど、買う理由がない」と冷静に分析していました。さらに、「日系ブランドの撤退ラッシュ」として、無印良品やユニクロの一部店舗閉鎖と関連付けて語る論調も見られ、日系企業全体への懐疑的なムードが漂っていたことがうかがえます。
また、**中国のEC情報系メディア「億邦動力」**も2025年2月の記事で、「ニトリは2014年の進出以降、順調に店舗を増やしてきたが、ライブコマースや即時配送に対応できず、ローカル競合に埋もれた」と指摘。日本と同じ戦略をそのまま持ち込んだことが、中国市場ではむしろ“ズレ”となって表れた可能性を示唆しています。
一方、ニトリ本社は公式に「中国市場からの完全撤退ではなく、戦略的な店舗再編」と説明。赤字店舗を整理しつつ収益性の高いエリアに集中する方針を明らかにしており、報道との温度差も見られました。
とはいえ、わずか数年での急拡大と急縮小の流れは、中国市場における「難しさ」と「読み違い」があったことを強く示唆しています。
本記事では、このニトリの中国大量閉店の背景に何があったのかを解説するとともに、日中間の家具事情の違いや、ローカライズ戦略の重要性、そして他社事例から読み解く今後の展望についても丁寧に掘り下げていきます。
【背景】ニトリの中国進出と当初の戦略
ニトリが中国に初めて出店したのは2014年。その第一号店は**上海市の「環球港ショッピングセンター」内にオープンし、日本での成功モデルをそのまま中国市場に持ち込む形でスタートしました。当時のニトリは、「アジア制覇」「2032年までに世界3,000店舗」**という大胆な中長期戦略を掲げており、中国はその最重要拠点と位置づけられていました。
ニトリの強みは、SPA(製造小売)モデルにあります。これは、商品企画から製造・物流・販売までを自社で一貫して管理し、コストを抑えながらも品質の高い商品を提供できるビジネスモデルで、IKEAや無印良品とも一線を画す存在として、日本国内では圧倒的な支持を得てきました。このモデルを中国市場にも展開し、**“お、ねだん以上。”**というブランドメッセージを現地向けにローカライズしつつ、家具・収納・キッチン用品などをワンストップで揃えられる存在として成長を目指しました。
当初、ニトリは沿海部の大都市を中心に出店を進め、2022年末時点では中国本土に30店舗以上を展開。上海・北京・広州・深センなどの都市圏に集中させ、現地法人「NITORI(CHINA)HOLDING CO., LTD.」を設立するなど、組織体制の整備も進めていました。現地での採用・マーケティング・物流も自社でまかない、日本と同様に低価格かつ統一されたブランド戦略での展開を行っていました。
また、ニトリは中国での物流拠点やEC展開の基盤づくりにも取り組んでおり、2020年以降は天猫(Tmall)などの中国ECモールにも出店。オフラインとオンラインを融合した「OMO戦略」にも着手していました。ただし、これらの動きは、後発として中国市場に参入したニトリにとってはやや遅きに失した感も否めません。
ニトリが期待していたのは、**中間所得層の急増にともなう「家庭の質の向上ニーズ」**でした。広い住宅を持つ都市部の若年層や新婚家庭、都市に出てきた新中間層などがターゲットとされ、「シンプルで高品質な家具を安くそろえたい」というニーズに応えられると見ていました。
しかし実際には、中国の家具市場は想像以上に地域差と文化差が激しく、後述するように**「家具を買って揃える」という文化そのものが日本とは大きく異なる**ことが、ニトリの成長にブレーキをかけることとなりました。
戦略的には間違っていなかったように見えるニトリの中国進出。しかし、次章で見ていくように、そこには**見落とされた大きな“文化の壁”**と、急成長する現地企業との競争の激化という難題が待ち構えていたのです。
【失敗の要因】ニトリが中国でうまくいかなかった理由
一見すると、日本と同様の低価格・高品質戦略で挑んだニトリの中国展開。しかし、実際には現地市場における消費行動の違いや、急速に進化する競合環境とのズレが次第に顕在化していきました。
ブランドの認知と訴求の弱さ
まず大きな壁となったのが、ニトリというブランドの浸透不足です。日本ではテレビCMや店舗体験を通じて“お、ねだん以上。”というイメージが定着していますが、中国では知名度が低く、「日本の安い家具店」という以上のブランド価値を感じにくかったという声が多く見られました。特に中国ではロゴ・世界観・デザイン性の統一が強いブランドに人気が集まりやすく、ニトリの控えめなブランディングはやや埋もれがちだったとも言えます。
EC・ライブコマース時代への適応の遅れ
中国ではコロナ禍を機に、ライブコマース(生放送で商品を販売)や即時配送が急速に普及しました。アリババ系の天猫(Tmall)、京東(JD.com)に加えて、抖音(Douyin/TikTok中国版)での家具販売が爆発的に成長する中、ニトリはそうしたトレンドに乗り遅れた感が否めません。
例えば2024年時点で、競合する中国の家具ブランド「林氏木業」や「全友家居」などは、抖音ライブで1日あたり数千万元(数億円)を売り上げる事例もありました。これに対しニトリは、天猫出店はしていたものの、ライブ配信やSNSでの攻勢は極めて控えめでした。
消費者の価値観とのズレ
中国の若年層は、価格だけでなく「デザイン性」「映えるかどうか」「生活の質を上げる演出」に敏感です。そのため、シンプルで機能的、装飾をそぎ落としたニトリの家具は、やや“地味”に見えてしまう傾向があります。
また、ニトリの家具は日本の住宅事情に合わせてサイズ感や素材が最適化されており、中国の広めの住宅や欧米風の内装との相性が微妙だったという指摘もあります。
中国のインテリア系SNS「小紅書(RED)」では、「ニトリの家具は実用的だけどテンションが上がらない」「写真映えしない」というレビューが散見されており、ここでもライフスタイル提案型の訴求不足が見て取れます。
地元企業との熾烈な競争
さらに、競合環境も急速に厳しくなりました。中国の家具市場では、前述の**林氏木業(LINSHI MUYE)や源氏木語(Yuanji Muyu)**といったローカル企業が、デザイン・EC・ライブ販売の三拍子を揃え、若者層に急拡大。
これらの企業は、徹底したデータ分析によってユーザーの好みに応じた家具をスピーディーに投入し、大型倉庫から翌日配送する仕組みも構築しています。
一方ニトリは、自社物流や海外調達に依存しており、在庫回転や配送スピードで後れを取ったとも言われています。
【日中比較】ニトリの日本店舗と中国店舗の違い
ニトリの中国展開におけるつまずきの背景には、単なる競合との戦いだけでなく、「日本での成功モデルをそのまま中国に持ち込んだ」ことによる構造的なミスマッチが存在します。以下では、日本と中国それぞれの店舗設計や顧客体験における違いを整理し、そのズレが与えた影響を探ります。
立地と出店戦略の違い
日本国内のニトリ店舗は、郊外のロードサイド型が中心です。広大な駐車場と一体型になった大型店舗で、家族連れが週末に車で訪れ、ゆっくりとショッピングを楽しむ構造です。商品点数の多さと滞在時間の長さを前提とした“回遊型”の設計が基本です。
一方、中国のニトリ店舗は、都市部の商業施設(ショッピングモール)内に多く出店されています。駅直結や繁華街のテナントとして入居するケースが多く、都市部の若者や単身者をターゲットにしています。モール自体の回遊性が高くない場合や、周囲に競合が多い場合、「目的買い」ではなく「ついで買い」になりがちで、客単価が伸びにくいという課題も生じていました。
店舗設計と接客スタイルの違い
日本のニトリでは、セルフサービス方式と展示中心のフロア構成が一般的です。商品を見て回り、必要があれば自分で棚からピックアップし、レジで会計を済ませる流れは、合理性を重視する日本人にはなじみの深いスタイルです。
しかし中国では、接客や実演販売の文化が根強く残っています。特に家具のような高単価商品においては、**「説明を受けたい」「コーディネートしてほしい」**というニーズが強く、放置型の接客スタイルは「不親切」と受け取られることもあります。
また、ニトリ店舗のシンプルな陳列・無機質な導線は、中国の若年層にとってはやや“味気ない”と映り、体験型・ライフスタイル提案型の競合ブランドに比べて印象が薄くなる傾向がありました。
商品ラインナップと売れ筋の違い
日本でのニトリの主力商品は、収納家具、寝具、カーテン、食器、キッチン用品など、日常生活に密着したアイテムが中心です。特に賃貸住宅に住む若者が「新生活でまとめて揃える」ニーズにフィットしています。
ところが中国では、多くの賃貸住宅が家具付きで提供される(この点は次章で詳述)ため、そうした「一式揃える」需要が少なく、生活必需品ではなく、デザイン性や差別化を求める家具・インテリアが好まれる傾向があります。
また、中国市場においては華やかさ・豪華さ・“映え”重視の嗜好が強く、シンプルでナチュラルなニトリのテイストが「地味」と受け取られることもありました。
価格帯の捉え方と“コスパ”感覚の違い
ニトリの強みである「お、ねだん以上。」という価値提案は、日本では**「低価格なのに品質が良い」という驚きの体験**として浸透しています。
一方で、中国の都市部においては、価格が安いこと=品質が低い・信用できないという先入観が未だ根強く、特に家具のような長期間使う製品においては、「安さ」がむしろ不安材料になってしまうことがあります。
さらに、中国ローカル企業が価格面でもニトリと同等、もしくはそれ以下で攻めてくるケースも多く、「日本製だから」というだけでは差別化につながらなくなっていました。
【文化の壁】家具事情の違い──“家具を買う文化”がなかった?
ニトリが中国市場で苦戦した最大の背景には、単なる競争や戦略ミスではなく、「家具を買う」という文化そのものの違いが存在していました。
日本では当たり前とされている“家具なし物件に入居し、ニトリで一式揃える”というスタイルが、中国では根本から通用しなかったのです。
家具付き賃貸が圧倒的に主流の中国
中国では、都市部を中心に家具・家電付き賃貸(拎包入住=スーツケース一つで入居できる)が一般的です。特に北京・上海・広州・深センといった一線都市では、賃貸物件の多くがベッド・机・ソファ・冷蔵庫・洗濯機・エアコン完備で提供されており、入居者が自分で家具を揃える必要はほとんどありません。
これは、転勤・単身赴任・若年層の流動性が高い都市社会であることと、不動産オーナー側が物件価値を高めるために家具を備え付けるのが慣習になっていることが大きな要因です。
そのため、日本のように「引っ越したから家具を買おう」「一人暮らしセットを揃えよう」といった消費行動自体があまり存在しません。
ニトリのような**“新生活応援型”モデル**が根本的に成立しにくい市場だったと言えます。
購入住宅も“家具付き”が当たり前
さらに、中国では新築マンションを購入する際、「精装修(内装・家具付き)」がデフォルトとなっているケースが増えています。
内装・キッチン・収納・照明・家具まで含めて施工済みで引き渡される物件が多く、住み始めた瞬間から生活を始められる仕様が一般的です。
これはデベロッパーとインテリア会社が包括契約を結び、「内装費込みのパッケージ販売」として標準化が進んでいるためです。そのため、住人が後から家具を選び直す動機が生まれにくく、個別家具を買うニーズが限定的になっています。
家具は“個人で選ぶもの”ではないという感覚
中国では、「家具を一から自分で選び、空間をコーディネートする」という考え方が、まだ一部の上位層や趣味層に限られています。一般的には、“あるものを使う”という合理性重視が根づいており、家具の選定に時間と労力を割く文化はそれほど浸透していません。
また、家具選びは「一家の主人(往々にして年配男性)」が大きな決定権を握ることも多く、若者がSNSで見つけた家具を買って部屋を飾る」というライフスタイルはまだ限られた層にとどまっています。
SNS時代に求められる“映える・差別化できる家具”
一方で、近年は「小紅書(RED)」や「抖音(Douyin)」といったSNSの影響で、“映える部屋”への関心は急上昇しています。
若者を中心に、韓国風・北欧風・ミッドセンチュリー風などのインテリアトレンドが拡散される中、個性的でデザイン性の高い家具を好む層も増えてきています。
このような層は「テンプレート家具」では満足せず、よりパーソナライズされた世界観のあるブランドを選ぶ傾向が強く、シンプルで無難なニトリの家具は、逆に**“面白みがない”**と見なされてしまうことが多くありました。
つまり、ニトリが想定していたような「家具を選ぶ楽しさ」「一式まとめ買い」「合理的な価格と品質を評価する層」という前提が、中国の主流市場には存在していなかったのです。
この生活文化と住宅慣習の“深い溝”こそが、ニトリが最後まで超えられなかった最大の壁だったのかもしれません。
【公式発表と現地報道の差】「戦略転換」か「実質撤退」か?
2025年に入ってから相次いだニトリ中国店舗の閉店に対し、**本社は一貫して「戦略的な再編であり、中国市場からの撤退ではない」**と説明しています。
ニトリホールディングスは、2025年2月に発表した決算資料やメディア向けコメントにおいて、閉店の背景を次のように述べました。
「中国国内において、一部不採算店舗の整理を行うことにより、事業の効率性と収益性を高めることを目的とした再編を実施しております。今後も中国市場における展開機会を慎重に見極めてまいります」(IR発表より)
つまり、ニトリ側のスタンスはあくまでも**「選択と集中」**による事業の見直しであり、全面的な撤退や中国事業の失敗を認めるものではありません。
一方で“実質撤退”と断定する中国メディアの報道
しかし、中国国内の報道ではニュアンスが大きく異なります。
特に2025年1月、**澎湃新聞(The Paper)**は「ニトリが上海旗艦店を含む複数店舗を相次いで閉鎖。数年にわたる拡大戦略が行き詰まり、中国市場からの“曲線撤退”が始まったのではないか」と報道。
また、新浪財経や観察者網も、閉店の動きを「外資小売の撤退トレンド」と位置づけ、ユニクロ・無印良品・イケアなど、他の日系・外資系ブランドとの共通項をあわせて紹介。**「外資ブランドが中国消費者の変化についていけていない」**というトーンが強調されていました。
中国のSNS(Weibo)上でも、「これは撤退だろう」「もう日本企業は中国で勝てないのでは?」といったコメントが多数投稿され、「戦略的再編」よりも「敗退・撤退」として受け取られていることが伺えます。
“撤退=負け”という感情的レッテル
中国では、経済成長とナショナリズムが交錯する中で、「外資系企業の撤退」はしばしば**「中国市場で勝てなかった証」**として政治的・感情的に取り上げられる傾向があります。
そのため、ニトリのように「段階的に縮小する」という戦略を取ったとしても、報道やネット上では**「失敗した」「逃げた」**という論調になりやすく、冷静な受け止め方が難しいという側面があります。
加えて、近年ではテンセント・アリババなど中国企業による“愛国消費”キャンペーンも盛んで、外資系ブランドへの風当たりが強まっていることも、こうした見方を加速させています。
日本と中国で異なる“撤退”の解釈
日本企業の中には、国内市場の縮小を見据えて中国や東南アジアに展開するケースが多く、「うまくいかなければ再編・撤退も当然の選択」とする柔軟な考え方が主流です。
しかし、中国では、撤退を「経営判断の一環」と捉えるよりも、「市場から拒絶された」「負けて逃げた」という強い否定的ニュアンスで解釈されがちです。この“言葉の温度差”が、ニトリの動きに対する日中間の認識ギャップをさらに広げていると考えられます。
表面的には「閉店」という同じ現象でも、それが意味するところは国によって大きく異なります。
このように、現地の世論や報道環境を読み誤った場合、“ブランドの価値”そのものが揺らぐ可能性すらあるのです。
次章では、ニトリと他の外資系企業の明暗を分けたポイントを探るために、イケアや無印良品との比較分析を行っていきます。
【他社比較】無印良品・イケアの成功と違い
ニトリが中国市場で苦戦する一方で、同じく日本発の無印良品や、スウェーデン発の**イケア(IKEA)**は一定の成功を収め、ブランドとしての定着にも成功しています。
その明暗を分けた要因には、単なる商品力だけでなく、ローカライズ力・マーケティング戦略・顧客体験の設計といった要素が大きく関係しています。
無印良品:中国で“生活美学”として浸透
無印良品(MUJI)は、2005年に中国進出を果たし、現在では中国本土に約300店舗以上を展開しています。
特筆すべきは、そのブランドが**「生活の質」「シンプルで美しい暮らし」**を提案する“ライフスタイルブランド”として中国で高く評価されている点です。
特に注目されたのが、現地とのコラボレーションです。たとえば、「MUJI × 華為」の共同プロモーションや、中国の旧正月・二十四節気など文化に寄り添った商品企画・パッケージ展開は、単なる“日本ブランド”ではなく、「中国の暮らしに根ざした外資」としての立ち位置を確立しました。
また、無印は店舗内にカフェや書籍、ワークショップスペースを併設するなど、“体験型”店舗としての展開にも注力。商品そのものだけでなく、「空間体験」「時間の過ごし方」といった目に見えない価値を提供する点が、感度の高い都市消費者に支持されています。
イケア:中国流にローカライズし直したグローバル企業
IKEAは1998年に中国に進出。長年にわたり郊外型の大型店舗を展開してきましたが、中国の都市化・若者層の移動志向に対応するため、2020年以降は**都市型の小型店舗(IKEA City)**を導入し始めました。
これにより、かつては“車がなければ行けない郊外型店舗”だったイケアが、地下鉄駅近くの繁華街でも気軽に利用できる形となり、利用者の裾野が一気に広がりました。
さらにイケアは、ライブコマースやWeChatミニプログラムでのEC展開にも積極的で、コロナ禍以降の消費者行動の変化にも柔軟に対応。
SNSでは、人気インフルエンサーとコラボした「イケア風コーディネート術」なども話題となり、中国消費者の“楽しみ方”にブランドが溶け込む形でファンを増やしています。
また、家具の販売だけでなく、サブスクリプション型の家具レンタルサービスや、家庭向けインテリアコンサルティングといった付加価値型サービスを導入した点も、中国での差別化につながっています。
ニトリとの違いは「適応力」と「感情への訴求」
無印やイケアが成功した背景には、単なる商品の押し売りではなく、生活の文脈や感情への“共鳴”を重視した戦略が見て取れます。
一方でニトリは、「安くて便利」という機能訴求は強かったものの、ブランドとしての物語性や情緒的な価値提供には乏しく、消費者の心に響く提案が不足していたとも言えるでしょう。
また、無印・イケアはともに現地スタッフ主導の企画や施策が多く、現地目線に根ざした柔軟な運営体制を敷いています。ニトリは比較的日本主導型のオペレーションが多く、そうした“現場感覚のズレ”も、消費者ニーズへの遅れにつながっていた可能性があります。
【今後の展望】ニトリは中国を完全撤退するのか?
2025年時点で、中国本土におけるニトリの店舗数は急激に減少しつつありますが、ニトリ自身は「完全撤退ではない」と明言しています。
では今後、ニトリは中国市場でどのような方針をとっていくのか。完全撤退の可能性、あるいは再構築の道はあるのでしょうか。
一部店舗の再編・縮小は継続
まず、ニトリは現在進めている中国国内の店舗整理について、**「不採算店の閉鎖と、収益性の高い都市への集中」**という再編方針を示しています。
実際に、2024年末から2025年初頭にかけては、地方都市や郊外店舗の閉店が相次いだ一方で、北京・上海・広州といった一線都市では一部店舗を維持している状態です。
つまり、全面撤退ではなく、今後は**出店戦略を「拡大から収益重視型へ転換」**し、限定的に運営を継続する意図がうかがえます。
ECへのシフトと“デジタル回帰”
中国市場でのリカバリーの鍵となるのが、ECチャネルの強化です。
天猫(Tmall)や京東(JD.com)といった既存の大型モールでの展開に加え、抖音(Douyin)や小紅書(RED)などSNS型のライブコマースや映え型PRの活用が今後の課題となるでしょう。
また、家具のオンライン販売では、サイズ感・組み立て・質感などの不安を解消するために、AR試着機能やバーチャルショールームの活用も期待されます。
これらは、これまでニトリがあまり得意としてこなかった分野であるだけに、外部パートナーとの提携や現地スタートアップとの連携など、柔軟な発想が必要になります。
中国市場以外への注力も本格化
ニトリは中国以外にも、アメリカ・台湾・マレーシア・ベトナム・フィリピンなどの海外市場への進出を進めています。特にベトナムでは製造拠点だけでなく販売拠点の強化にも取り組んでおり、「ポスト中国」としての役割を担いつつあります。
アメリカ市場では、より高価格帯を意識した商品展開を進めており、単なる“日本式輸出”からの脱却を目指しています。
このように、中国市場での苦戦を機に、海外展開全体のポートフォリオを見直す動きも加速していると言えるでしょう。
ブランドとしての“再定義”が問われる段階に
今後のニトリにとって重要なのは、**「ニトリとは何を提供するブランドなのか」**を、中国を含めた海外市場で再定義し直すことです。
日本国内では「低価格で質の高い家具」という明確なポジションを築いていますが、それだけでは差別化できない市場が世界には多数存在します。
ライフスタイル提案型ブランドへ進化できるか?
現地文化と接続する柔軟性を持てるか?
ニトリが次のステージに進むためには、そうした問いに真正面から向き合うことが求められているのです。
【まとめ】ニトリ閉店から見る中国市場の難しさと日本企業への教訓
ニトリが中国市場で直面した“大量閉店”の動きは、単なる企業の失敗事例ではなく、中国という巨大市場の特性と難しさを浮き彫りにする象徴的な出来事でした。
ニトリは、これまで国内で築いてきた「安くて良い家具を提供する」という強力なブランドを武器に、海外展開の柱として中国市場に挑みました。しかし、その成功モデルは、文化・生活様式・購買行動が大きく異なる中国では必ずしも通用しなかったのです。
特に象徴的だったのは、以下の3つのズレです。
1. 生活文化のズレ
日本では賃貸や引っ越しのたびに家具を揃えるのが一般的ですが、中国では家具付き物件が主流で、そもそも「家具を買う必要がない」という前提がありました。
この文化的背景の違いが、ニトリのビジネスモデルの根底を揺るがす結果となりました。
2. ブランドへの期待値のズレ
中国では価格よりも**「映えること」「差別化できること」が価値基準になりがちで、シンプルで実用的なニトリのスタイルは“無難すぎる”と見なされてしまいました。
また、外資ブランドには情緒的価値や世界観**が求められやすく、「日本で有名だから」という理由だけでは消費者に響きませんでした。
3. 市場変化への対応スピードのズレ
ライブコマースや短尺動画を中心とした超高速消費の時代において、ニトリはデジタル戦略でも後れをとりました。
地元企業はインフルエンサー連携や即日配送、バーチャル内覧など次々に新しい武器を投入する中で、ニトリは従来型の店舗主導モデルにこだわりすぎたと言えるかもしれません。
日本企業が得るべき教訓とは?
ニトリのケースは、「海外展開には現地化が不可欠」という教科書的な教訓を、リアルな失敗例として示しているとも言えます。
- 現地の生活者視点での価値設計ができているか?
- ブランドの世界観は文化を超えて伝わるものか?
- 急速な市場変化に対応できる柔軟な運営体制があるか?
これらに正面から向き合わなければ、いくら日本で成功したモデルでも、海外では簡単に通用しないという現実が突きつけられます。
撤退は「失敗」ではない。戦略の転換点として再評価を
最後に強調したいのは、撤退や縮小は決して“失敗”ではなく、“戦略の修正”であるべきという視点です。
世界中の企業が、変化する市場に合わせて撤退・進出・再編を繰り返しており、撤退=敗北という固定観念は過去のものです。
むしろ、早期に軌道修正し、次の一手に向けた布石を打てるかどうかが、グローバル企業としての持続性を決定づけるとも言えるでしょう。
ニトリが今後、どのように中国市場との向き合い方を再構築していくのか。そして、この経験をどう他地域に生かしていくのか。その動向に、引き続き注目が集まります。


