中国のKOLを語るときには外せない存在
今中国で一番話題のKOLといえばpapi醤(パピジャン)です。微博(Weibo/ウェイボー)のフォロワー数は2000万人を超えていて、微信(WeChat)で発信された動画の閲覧数が数分間で10万を越えたり、「秒拍(MiaoPai)」という動画共有サイトでのフォロワー数も2300万人を越えるという、とてつもない影響力の持ち主です。中国でのKOLといえばタレントやミュージシャン、アスリート、実業家、文化人などがイメージされるのですが、papi醤はこれらのジャンルには属さない、これまでにはなかったスタイルのKOLです。インディなクリエーターとして動画投稿を続けながら、一方で新たなビジネス化を模索するpapi醤の徹底解説をしていきましょう。
papi醤って一体誰?
papi醤の本名は姜逸磊(ジアンイーレイ)で、1987年に上海に生まれ、中央戯劇学院で映画監督コースを専攻し、テレビ局や演劇界で演出や助監督などの仕事をした経歴があります。現在は中央戯劇学院の修士課程で学びながら活動をしています。2015年10月ごろから秒拍(MiaoPai)などのサイトに自分で作成した動画を投稿し始めました。当初はナンセンスものやパロディーばかりだったのですが、投稿を重ねながら少しずつ独自のスタイルを確立して、フォロワーを増やしていきました。2015年8月からは微博(Weibo/ウェイボー)に投稿を始め、2015年10月から再生速度を早送りにして編集した動画の投稿をはじめ、そこで一気にブレークし、半年間で数百万のフォロワーを獲得しました。papi醤のブレークとほぼ同時期に、中国ではKOLがショートムービーを利用する手法が定着していきました。papi醤は「動画インフルエンサー」の時代を切り開いた存在ということができそうです。
「ツッコミ」とテンポの良さがウリ
papi醤の動画投稿は、中国の独身のキャリアウーマンが抱える仕事や人間関係、恋愛などにかかわる悩みや日常生活のネタ、学園ネタなどを多く取り上げています。シニカルで辛らつな「ツッコミ」があり、ネット世代が「あるある」と共感できる内容だから多くの支持者を得ているのでしょう。「私はpapi醤。美貌と知性とを兼ね備えた女子よ!」というのがの決めゼリフで、テンポのいい早口で、毒舌・辛口のトークを展開していて、「突っ込みネタ動画系」とも言えます。トークの言葉遣いには、時には若い女性には似つかわしくない粗暴で品のないスラングがあったり、外国語が使われたりもします。papi醤の品のない言葉遣いはその過激さから、国家広電総局から不適切なので改めるようにと指摘を受けたこともあります。papi醤は日本の「オタク系コンテンツ」の影響を受けているともいわれているのですが、papi醤の動画投稿には脚本の構成がよく練られているという、他の動画投稿には見られない特徴があります。papi醤はトーク面白さとと優れたコンテンツだけでKOLのトップにのし上がった異色の存在なのです。
広告枠をオークションで売り出したのは中国初
2016年3月、papi醤が中国のマルチメディアコンテンツ制作会社の羅輯思維(Luojisiwei)やいくつかのベンチャーキャピタルから約1200万元(約2億円)の資金調達を果たし、大きなニュースとなりました。この資金はpapi醤とそのパートナーである楊銘氏とが動画投稿の事業を企業化するために獲得したものだと言われています。papi醤と楊銘氏は2016年4月には徐州春雨聴雷網络科技有限公司を設立し、さらに5月には北京春雨聴雷網络科技有限公司を設立して、ビジネスの企業化を行いました。2016年4月にはpapi醤の動画の始まる前に挿入される広告枠のオークションが行われ、その広告枠が上海の美容EC企業の麗人麗粧(Lily & Beauty)によって2200万元(約3億8000万円)で落札されたことも非常に大きな話題になり、papi醤の注目度が高まりました。
最も成功した「自媒体」
KOLがショートムービーを活用しだしたのと同時進行で、SNSのプラットホームである微博(Weibo/ウェイボー)も「動画」や「ライブ」といったコンテンツの提供に力を入れ出したといわれています。2016年には微博(Weibo/ウェイボー)のショートムービーの投稿数は前年比で200%増、動画の一日当たりの平均放映数は前年比で700%以上と大きく増加し、微博(Weibo/ウェイボー)の増益を押し上げる要因になったという分析があります。中国ではこのところ「自媒体」(セルフメディア)と呼ばれる自分自身を表現し発信する人たちが増加し活動が活発になっています。「2016年には「自媒体」のクリエーターは微博(Weibo/ウェイボー)を通して年間117億元を稼ぎ出し、今や中国国内で最もホットな存在になっている」と微博(Weibo/ウェイボー)のCEO・王高飛氏は2016年10月の「インフルエンサー・サミット」で発言しています。その中でもpapi醤は、自己のブランド化(パーソナルブランディング)に最も成功した「自媒体」の一人であるといえるでしょう。
投資対象としてのpapi醤
中国では今「コンテンツバブル」が起きているといわれています。これまで投資対象だった不動産やベンチャー企業に流れていた資金が、ドラマ放映権や小説の映像化権などのコンテンツ部門に流れ込み、「自媒体」も投資の対象になっているようです。羅輯思維(Luojisiwei)は2016年3月にpapi醤に投資を行い、徐州春雨聴雷網络科技有限公司設立のときには株主として名を連ね、広告枠のオークションを企画して大成功を収めたと思われていた矢先の2016年8月には早くもpapi醤への投資から手を引いたのです。papi醤の人気は広告枠のオークションを行った頃がピークで、最近では人気もやや下降気味だともいわれています。羅輯思維(Luojisiwei)の一連の動きは、papi醤に投資して広告枠のオークションを仕掛けて、その価値が最大になっている間に利益を確定して投資を回収した行動であったのだと説明されています。この羅輯思維(Luojisiwei)の動きは、中国でもインフルエンサーを投資先の一つと考えて資金を投入する動きが始まっていることを示しています。papi醤のほかにも多くの「自媒体」が投資家からの出資を受けていて、「自媒体」への投資を目的としたベンチャーファンドも生まれているようです。
papi醤の動向がインフルエンサーに影響を与える?
2017年はさらに多くの「自媒体」が出現し、「自媒体」への投資もこれまで以上に活発に行われることが予想されています。「自媒体」の商業化が進行し、選別と淘汰が行われて「自媒体」は勝ち組と負け組みとに二分化されるといわれています。papi醤も2016年には企業化を果たした後、淘宝(タオバオ)に出店したり、「papitube」という動画投稿のプラットホームを立ち上げたりと、試行錯誤を行っていきています。papi醤はこれまで常に他の「自媒体」の一歩先を進みながらパイオニアの役割を果たしてきました。2017年には新たな投資家が再び現れるのか?どのような経営形態で新たなビジネスモデルを構築するのか?あるいはクリエーターとしての道を突き進んでコンテンツの充実によって他の「自媒体」との差別化を図るのか?papi醤を巡る動きが中国のKOLたちや「インフルエンサーマーケティング」に影響を及ぼすことは間違いないので、2017年もpapi醤の動きからは目が離せません。