消費者の好み多様化、低価格ブランド支持も
中国のインターネット界が、どこへ向かって行くのか、という疑問は中国でホームページ運営などを手がけるIT企業のみならず中国向けビジネスを展開する企業や個人にとっても気になることではないでしょうか。中国ITサービスは、かつて中国最大の検索サイト・百度(Baidu)が検索シェアを握り、ECでもアリババグループの独壇場でしたが、検索サイトは「360捜索」や「神馬」といった新たなサイトの台頭、ECでも特売で急成長する「唯品会」など他のECサイトや自社ECサイトの登場で、百度、アリババグループがシェアを奪われる展開になっています。ネットショップという巨大市場でさまざまな商品やサービスの品質や価格が消費者の目にさらされ、消費は多様化、価格競争も一層激しさを増していく中で、今後の中国ネット界での成功の鍵は何なのでしょうか。中国向けビジネスを展開するIT企業やメーカーの取り組みを追いました。
中国スマホは新興メーカーが躍進、低価格が支持
まず中国の人々がインターネット関連サービスを利用する際に主に利用しているモバイル(スマホートフォンを含む)の状況からみていきましょう。米国の調査会社IDCによりますと、2016年のスマートフォン(スマホ)の中国出荷は、前年比約9%増の約4億7000万台と、スマホがネット関連ビジネスの主戦場となる状況は今後も変わりなさそうです。しかし、注目すべきは、中国の新興メーカーの躍進で、OPPO(オッポ)、華為技術(ファーウェイ)、vivo(ビボ)の中国メーカーがスマホ出荷台数シェアのトップ3を独占。中国新興メーカーがスマホシェアを伸ばした背景には、SNSへの画像投稿などで増加する「自撮り」の便利さや高性能なカメラ機能を備えたOPPOの機種のヒットのほか、米アップルの「iPhone」に比べ割安感のある価格帯が支持されたことがあります。韓国サムスン電子は発火事故による販売中止で伸び悩み、レノボ・グループは、米モトローラとの事業統合などで販売を抑制したようです。2016年のスマホは、機種による機能の大差がなくなり、価格競争の年だったといえるのかも知れません。
端末にAI搭載へ、スマホと車載設備連動も レノボ
2017年のスマホを含むモバイルやパソコンの販売も低価格志向が続くのかといいますと、一概にそうとはいえないようです。日本経済新聞によりますと、パソコン世界大手でスマホも手掛ける中国のレノボ・グループは、「スマホの次世代品を含め、新しい形の端末に成長余地がある」とみています。レノボ・グループは、AI(人工知能)やビッグデータ、IoT分野に投資。インターネット関連消費の一層の個性化を見据え、個々の消費者の嗜好にあった動画やゲーム、音楽を多様な端末で提供できるようにするといいます。また、次世代端末にAIを搭載できるソフトウェアや、スマホと車載エンターテイメント設備を連動させる仕組みの開発も行うそうです。これまでも中国のスマホ出荷は、数年単位でメーカーの出荷台数シェアが目まぐるしく入れ替わっている事実からみても、新機能の搭載でスマホ出荷の状況が激変する可能性があり、ネットで中国向けビジネスを展開する企業にとっては目が離せない状況が続きそうです。
検索サービスやネット広告で“個性化”対応進む
中国のインターネット検索や広告を含むネットでの販売やサービスの状況はどうでしょうか。インターネット関連ビジネスの入り口となる検索サイトはというと、検索+αの機能が求められるようになっています。中国検索大手の百度のシェアが低下し、オフィス用パソコンのセキュリティサービスなどを行うIT企業「奇虎360」の「360捜索」やスマホに特化した検索サービス「神馬」が躍進。百度は、AI(人工知能)技術による検索サービスの精度向上を狙うとともに、AI技術を自動運転や金融などの新規分野にも応用する計画で、検索依存からの脱却やネット消費個性化への対応で巻き返しを目指します。SNSを活用したマーケティング事業を行う日本企業・アライドアーキテクツでも中国のネットサービス大手・騰訊控股(テンセント)の対話アプリなどに中国の消費者一人ひとりに対して最適な広告を出せるサービスを2017年4月から始めるなど、中国のネット検索や広告の分野で個性化への取り組みは進んでいて、AI技術の進歩でこういった動きは一層加速しそうです。
食でも個性化、ネット宅配や越境ECでニーズ多様に
中国の消費の多様化、個性化はネット通販や実店舗でも進んでいます。食品業界では、ネット通販やネットを通じた宅配サービスの普及で、店舗での中国大手企業の定番商品の地位を揺るがしかねない事態となっています。2016年12月期業績では、即席麺最大手の康師傅控股、乳製品2位の蒙牛乳業、米菓子最大手の中国旺旺、ビール大手の華潤ビール、青島ビールなど中国大手食品・飲料メーカーが軒並み低迷。割高でも買い物の手間がかからない外食チェーンのネット宅配サービスを利用する消費者が増えたほか、越境ECなどにより中国メーカーが手掛けていない欧州ブランドのチョコレート製品や日本ブランドのグミといった多様な製品が中国国内に流入したことが主な原因です。健康志向やダイエット志向など消費者の食への要求はより細かくなって、食品メーカーや外食企業としても今後さまざまな消費者ニーズに対応した製品開発やサービス導入に迫られています。
アリババ、ユニクロがAI開発、ネットで接客も
こうした一連の消費者の多様化、個性化の動きを受けて、ネット通販や小売りの現場でも対応が進んでいます。中国のインターネット通販最大手のアリババグループは、中国小売り大手の百聯集団と2017年2月に提携すると発表しました。百聯は中国全土で約4700のショッピングセンターや百貨店を運営する国有企業です。アリババグループと百聯は、ネットと実店舗を融合した新たな小売りビジネスを模索し、百聯の全店舗で電子決済サービス・支付宝(Alipay )を導入するほか、AI(人工知能)やビッグデータを活用したサービスを共同で開発します。日本メーカーでもファーストリテイリング傘下の衣料品店ユニクロが自社のインターネット通販サイト上でAI(人工知能)を活用した接客サービスに乗り出し、日本や海外でのサービス展開を検討するなど、今後、AI(人工知能)などを使った小売りの新たなスタイルの確立が相次ぎそうです。
中国ネット界は、検索・比較型から提案型へ!?
スマホをはじめとする中国で利用されている端末の利用状況からネット消費までの流れと変化をみてきていえることは、中国のネット界は、インターネットユーザーが情報検索や商品・サービスの比較を自身で行う時代から、端末・サイトなどがそれぞれのユーザーのニーズ応じたものを提案する時代に来ているのではないでしょうか。SNSで得意ジャンルの商品情報を発信しているブロガーや動画配信者が人気を集めていることからみても、ネット上での提案の重要性が伺えると思います。中国向けホームページにおいても、“万人受けする”ではなく“(特定の)個人受けする”ページの制作や運営を考えること、またAIの幅広い導入が予想される将来は他社のさまざまなAIに提案されるページ作りを心がけること、が閲覧数アップやビジネス成功のヒントなのかも知れません。