中国でのAmazon Prime
10月28日、米オンライン小売り大手Amazonが中国でも配送料無料の特典が受けられるAmazon Primeの提供を開始しました。中国でのAmazon Primeの年会費は388元(約57米ドル、約6,000円)で、米国の年会費である99ドルより安く、日本の年会費3,900円よりもやや高目の設定です。ただし2017年2月末までは期間限定で、年会費が188元になるキャンペーンを実施しています。また、30日間の無料お試し期間が設定されています。Amazon Primeでは国内商品と外国商品の配送サービスが無料になります。外国商品の配送料無料は1回の注文金額が200元以上の場合のみ適用されます。
中国の物流問題が・・・
中国には、もっぱら海外の商品を求める「海淘族」と呼ばれる人たちがいます。この「海淘族」は特に商品の品質、ブランド、価格にこだわって海外の商品を求めるのですが、中国の物流体制の問題で、商品が消費者の手元に届くまでに長い日数を要します。特に中国国内の物流部門のサービスのクオリティの低さが問題になっていて、配送作業中に商品が乱暴に取り扱われてパッケージや中身が破損したり、ひどいときには中身が抜き取られる事故が多発しています。中国の物流は無事に手元に届くかどうかは運任せというところがあって、最近も中国国内でこの問題が大きく報道されました。また、今まで何も問題のなかった商品がある日突然に税関に留め置かれるということも起きたりします。そのようなリスクの存在とともに、事故が起きた場合のクレーム対応窓口がはっきりしないという問題が横たわっています。中国国内にも外国製品を専門に取り扱うサイトがあるのですが、その価格はかなり割高です。例えば日本の食品を専門に扱うサイトでは、普通のカップめんの焼きそばが400円~500円という価格設定なのです。これはリスク回避のコストだといってしまえばそれまでなのですが、これが中国の現状なのです。
今後どうなる?
Amazonは2014年11月から中国でのEコマースを開始しています。ここでは、アメリカ本国のAmazonと同じ純正の商品がアメリカと同価格で購入できます。物流業務もAmazon独自のグローバルな流通網を利用し、商品はアメリカのAmazonの配送センターから中国に空輸され、通関後、中国国内のAmazon配送センターに送られ、そこから消費者へ直接配送される一貫した物流システムです。これまで、中国の大多数の消費者が海外商品を購入する場合、送料と配送日数とを天秤にかけ、ほとんどが一番安い配送方式を選択して、商品が届くのを首を長くして待っていました。今回のAmazon Primeの開始は送料への負担が軽減され、スピーディーで安心な物流サービスを提供し、うんざりしている物流問題に解決策を示した訳ですから、中国の消費者にとっては朗報であることは確かです。しかし、Amazonの中国でのシェアは低く、Amazon Primeの導入が中国の消費者に与える影響はそれほどでもないという見方が多いのは事実です。また、この報道を大きく扱っているのは主として海外メディアであって、中国国内では一般消費者の関心にはそれほど結びついていません。通常プライムサービスにはデジタルコンテンツに対する優待がありますが、中国では法令や政策による規制があるので電子書籍以外のデジタルコンテンツの販売は行われていません。Amazonがすぐにこの障壁を乗り越えて映像や音楽などのデジタルコンテンツの販売を行えるようになる可能性は低いものと思われます。Amazon Primeの開始をきっかけにAmazon の新規会員になろうという人はそれほど多くはなさそうです。
Amazonは長期展望
今回のAmazon Primeの開始が一定の成果を収め、徐々に中国の消費者に浸透していったとしても、今の中国のEコマースの勢力図に直ちに大きな変動が起こるものとは思えません。Amazonは長期的な視野に立って、中国という巨大な市場に足がかりを作るとともに、消費者がより安心して利用できるサービス体系と物流システムを目玉にし、これを前面に押し出して中国市場に食い込んでいこうとする姿勢が窺えます。今後も、中国の抱える問題を解決していくことで中国市場への浸透を図るのではないでしょうか。Amazonの信頼性の高い物流システムとAmazon Primeの組み合わせは中国の消費者にとっての朗報であるばかりではなく、安心して利用できるサービス体系と物流システムは出店者にとってもアドバンテージになるでしょうから、今後中国の越境ECに参入し出店する際には、Amazonもその選択肢の一つとして考えても良いかもしれません。