はじめ
近年、中国の白酒市場は急速に成長しており、特に高級ブランドにおいては競争が激化しています。2020年のデータによれば、三大高級ブランド—貴州茅台(グイチョウ マオタイ)、五粮液(五粮液 / ゴリョウエキ)、泸州老窖( ルジョウ ロウショウ)は市場シェアの94%を占め、その中でも貴州茅台(グイチョウ マオタイ)は57%という圧倒的なシェアを誇っています。これらのブランドは、長年にわたり中国の高級白酒市場をリードしてきましたが、現在、特に若年層の消費者に対するアプローチが求められています。
若者層の白酒離れが進む中で、貴州茅台(グイチョウ マオタイ)をはじめとする高級ブランドは、そのブランド力を維持しながらも、変化する消費者の嗜好にどう対応していくかが重要な課題となっています。貴州茅台(グイチョウ マオタイ)がこの若年層の消費者に向けてどのような新たなマーケティング戦略を展開しているのかを知ることで、貴州茅台(グイチョウ マオタイ)がどのようにして伝統と革新を融合させ、次世代の消費者に訴求しているのかを学び、他の企業がどのようにこの変化に対応すべきかのヒントを得ることができるでしょう。
中国の白酒市場における若年層の消費動向
中国国内の白酒市場において、消費者層の変化が鮮明になっています。金六福(ジンリュウフ)「*1」前総裁の李奥氏がメディアインタビューで発表したデータによると、中国の白酒消費者における1970年代生まれ(70後)の世代が全体の40%を占め、続いて1980年代生まれ(80後)や1990年代生まれ(90後)は合わせて26%にとどまっています。これから見ても、現在の主要な消費層は45歳以上であることが分かります。
また、智研咨询(ジヤンツーチウィ)「*2」のデータによれば、白酒消費者の平均年齢は37歳とされ、これは全酒類の中でも最も高い年齢層です。さらに、中国国内の30歳以下の消費者における酒類の消費割合を見てみると、ビールが52%と圧倒的に高く、次いでワインが13%、カクテルが11%、フレーバービールが7%となり、白酒の消費割合はわずか8%に過ぎません。
これらのデータから、白酒市場における若者の消費が急速に減少していることが明らかであり、いわゆる「若者離れ」が進行していると結論できます。
若年層の「辛さ」に対する抵抗感が白酒離れを加速
时代数据(時代データ)「*3」が『2021年白酒消費トレンド』報告書にて行った調査によれば、白酒が若年層に敬遠される主な要因は、その独特な辛さに対する抵抗感です。

・若年層の関心が高い
18-34歳のグループが「味が辛い」と感じた回数が1290回で、35歳以上の713回を大きく上回っています。これからは、若年層が「白酒」に対して敏感であることがわかります。若者は、味に対して特に敏感であり、風味が強すぎると感じることが多いのかもしれません。
・消費文化の違い
白酒は中国の伝統的なアルコールですが、辛さが特徴的なため、苦手に感じる消費者も多いと予測されます。若年層は、より飲みやすく、まろやかな味を好む傾向にあるため、白酒の「辛さ」は抵抗感を引き起こしている可能性があります。一方、年齢が上がるにつれて、白酒の独特な味を好む傾向が強くなるのかもしれません。
・マーケティング戦略の必要性
若年層の消費者に向けた白酒のプロモーションにおいて、辛さを和らげるか、辛さが苦手な人向けの味のバリエーションを提供することが有効かもしれません。
・ターゲット層への対応
35歳以上の消費者にとっては、辛さはさほど気にならないと考えられますが、若年層向けの白酒市場を開拓するためには、味の改良や新たな飲み方の提案が重要です。
貴州茅台(グイチョウ マオタイ)の若年層向け新商品戦略
貴州茅台(グイチョウ マオタイ)は、若年層の消費者層をターゲットに、伝統的な白酒の枠を超えた新商品を積極的に展開しています。2022年5月には、貴州茅台(グイチョウ マオタイ)アイスクリーム事業部が初の伝統版カップ入り茅台アイスクリームを発売し、クラシックな味わいに加え、青梅煮酒味や香草風味など、多様なフレーバーを提供しました。その後、2023年3月には瓶入りのクラシック版アイスクリームを発売し、ヨーグルトや抹茶、ブルーベリー風味など、さらに多くの選択肢を提供しました。また、同年7月には高級ブランドの中街1946「*4」と共同で、牛乳、チョコレート、酸梅、蜜桃、青柚など5種類の新フレーバーを追加しました。さらに、貴州茅台(グイチョウ マオタイ)茅台は「茅小凌(マオシャオリン)」というキャラクターを立ち上げ、若年層向けのマーケティング活動を強化しました。このキャラクターは、貴州茅台(グイチョウ マオタイ)の文化を伝える役割を果たし、SNSなどで積極的にプロモーションを行っています。
さらに、貴州茅台(グイチョウ マオタイ)は瑞幸珈琲(ライキンカフェ)とのコラボレーションを通じて、新たな商品を展開しました。2023年9月には、「マオタイ ラテ」を共同開発し、若年層の消費者層にアプローチしました。この商品は、茅台の風味を持ちながらも、コーヒーと組み合わせることで、より飲みやすく、若者向けの新しい飲料として注目を集めました。
さらに、2023年11月20日には、グイチョウ マオタイ エコアグリカルチャー カンパニーとMOJT モチトとの共同開発による「貴州味道(グイチョウ ウェイダオ)」シリーズの新しいカクテルを発表しました。このシリーズは、世界的なクラシックカクテルのレシピを基に、茅台の風味を取り入れた独自の味わいを提供しています。また、台湾の人気アーティストである周杰倫(ジェイ・チョウ)を製品のアンバサダーとして起用し、若年層の消費者層へのアプローチを強化しました。
新商品の成功と市場への影響
貴州茅台(グイチョウ マオタイ)の新戦略は大きな成果を上げました。2023年には、茅台アイスクリームの販売が70万個を超え、アイスクリーム部門の売上は4.3億元に達しました。さらに、マオタイ チョコレートの販売は近20トンにのぼり、マオタイ ラテは4000万杯を突破しました。茅台アイスクリームの一周年記念では、1000万杯を売り上げ、ブランドの新しい象徴的な製品となりました。特に、2023年9月に瑞幸珈琲(ライキンカフェ)とのコラボレーションで発売した「マオタイ ラテ」の販売は初日で542万杯、売上1億元を突破し、現象的な人気を博しました。このように、貴州茅台(グイチョウ マオタイ)は若年層をターゲットにした商品群の成功により、全体の「その他の事業」の売上を45%増加させ、白酒業界外での収益を確実に増加させました。
貴州茅台(グイチョウ マオタイ)の若年層向け戦略の特徴:伝統と革新の融合
貴州茅台(グイチョウ マオタイ)は、伝統的な白酒の枠を超えて、アイスクリームやカクテルなどの新商品を開発し、若年層の消費者層にアプローチしています。これにより、ブランドの革新性を強調し、若年層の消費者層へのアプローチを強化しています。
また、他ブランドとのコラボレーションを通じて、新たな市場を開拓し、相乗効果を生み出しています。市場調査データを基に、消費者の嗜好やトレンドを分析し、商品開発やマーケティング戦略に反映させています。これらの戦略は、伝統的なブランドが現代の消費者ニーズに適応し、持続的な成長を遂げるための有効なアプローチと言えるでしょう。
まとめ
貴州茅台(グイチョウ マオタイ)の戦略の本質は、伝統的なブランド価値を維持しつつ、現代の消費者ニーズに適応する柔軟性と革新性にあります。特に、若年層の消費者層へのアプローチにおいては、デジタルマーケティングやインフルエンサーとのコラボレーションを積極的に活用し、ブランドの魅力を効果的に伝えています。
今後、他の高級ブランドも同様の戦略を採用することで、伝統と革新のバランスを保ちながら、若年層を中心とした新たな市場を開拓し、持続的な成長を遂げることが期待されます。具体的には、デジタルプラットフォームを活用したパーソナライズされたマーケティングや、エンターテインメント性の高いブランド体験の提供が効果的な手段となるでしょう。


