取り扱いブランドは14500。海外から続々と出店
天猫国際(Tmall global)は、阿里巴巴(Alibaba)集団が2013年に開設した越境EC専門のモールです。中国の消費者の志向が、「安いもの」から「本物」を求めるようになってきたことを受けて、海外有名ブランドを積極的に集め、偽ブランドや非正規ルートを排除して、中国の消費者には高品質、安心をウリにしています。天猫国際(Tmall Global)には2016年末現在で、63の国と地域から、約3700のカテゴリー、約14500ブランドの商品が展開されています。2015年末には、53の国と地域、約2500のカテゴリー、約5400ブランドであったのと比較しても驚異的なスピードで拡大を続けていることがわかります。中国の越境ECは、2016年4月に税制改革のショックによって一時取引額の落ち込みがあったのですが、これも2016年の後半には回復しました。税制改革が中国市場への信頼性を増す効果をもたらし、外国企業が天猫国際(Tmall global)に積極的に出店しました。日本企業関連では、三越伊勢丹グループが天猫国際(Tmall Global)に日本の百貨店業業界としては初めて旗艦店をオープンし、2016年11月のブラックフライデー(感謝祭翌日のセール日)に合わせてオープニングセールを開催しました。
購買層の拡大で「海淘族」は死語になる?
この天猫国際(Tmall global)の拡大の背景にあるのが、中国国内での海外製品に対する根強い人気と購買層の拡大です。海外の商品をECを通じて購入する人たちを「海淘族」と呼び、一部の特別な層として捉えられていたのですが、最近では海外の商品をECで購入することは特別なことではなくなってきているようです。これまで中国の越境ECのコアユーザーは80後(バーリンホウ)と呼ばれる1980年代生まれのホワイトカラーの女性であると言われてきました。 天猫国際(Tmall global)のユーザーの約7割が「24歳から32歳の年収10万元以上の世帯内で購買意思決定権を握る女性」であるとデータが示しています。この層の多くが北京、上海、広州などの大都市を生活拠点としていて、トレンドに敏感で、自分のライフスタイルを重んじる「中産階級」と見られています。しかし、ここにきて越境ECの購買層に変化と拡大が現れ始めました。2016年の1年間に新たに天猫国際(Tmall Global)のユーザーになった人たちの半数以上が90後(ジョウリンホウ)と呼ばれる1990年代生まれの世代の若者たちでした。この世代には海外製品をネットで購入する習慣が80年代生まれの世代よりもはるかに急速に広まっています。天猫国際(Tmall Global)全体では上海、北京、広州、杭州、深圳などの都市の居住者の消費額が上位に来ているのですが、90年代生まれの次の世代である2000年代生まれでは新疆やチベット、雲南などの地域にも消費層が広がってきています。2016年のデータでは2000年代生まれの一人当たりの購買額トップ10は、1位上海、2位北京、3位新疆ウイグル、4位チベット、5位雲南、その他にも青海、内蒙古、貴州がランクインしていて、10代の若者の購買力は中国西北、西南部の内陸地域も北京や上海といった大都市と肩を並べるようになってきています。このように若年層に急速に越境ECによる消費習慣が広まり、それが日常的な消費行動となりつつあり、今後数年もすれば「海淘族」という言葉は死語になるかもしれません。
購入商品の変化
このような購買層の変化を受けて、天猫国際(Tmall Global)での売れ筋商品にも変化が現れました。これまで越境ECの主要商品といえばベビー・マタニティ用品や食品であり、人気カテゴリーとして常にトップの座を占めてきたのですが、2016年には化粧品や美容機器などの美容関連カテゴリーがベビー・マタニティ用品や食品を追い抜きトップに躍り出ました。2016年はイヴ・サンローランのリップがエングレイビング(名入れ)サービスなどの男性のギフト購入を意識したマーケティングで微博(Weibo/ウェイボー)でも大変話題になりました。また、人気を集めた韓国ドラマ『太陽の末裔』に登場したラネージュの「ツートンリップバー」も微博(Weibo/ウェイボー)で大変話題になりました。これらのことも化粧品の好調な販売に関係していると思われます。新たな購買層である2000年代生まれの若者たちが購入しているのも化粧品などの美容関連商品です。男性が化粧品を買い求めるという現象は2000年代生まれの世代にも顕著に見られ、この世代の男性ユーザーのうち約2割の人たちが天猫国際(Tmall Global)で最初に買った商品は化粧品関連であったそうです。
オタクブームも関係?日本がついに1位に
2015年、天猫国際(Tmall Global)内で注文先として最も多かった国は米国であり、次いで日本、ドイツ、韓国、オーストラリアとなっていました。それが、2016年には日本がアメリカを追い抜きトップに出て、以下、アメリカ、韓国、ドイツ、オーストラリアの順に変わりました。日本の商品で売れているのはなんといってもスキンケア・ボディケア商品、化粧品、そして紙おむつなどのベビー関連用品です。2016年の「ブラックフライデー」では、日本でも急速な発展を遂げている日用品ECサイトの「LOHACO」の販売が好調で、店舗別ランキングでは「コストコ」や「メイシーズ」に続いて4位に入っています。また、中国の90年代生まれの中でも特に95年以降に生まれた層に広がるACG(アニメ、コミック、ゲーム)族の消費の伸びが顕著です。アニメやゲームなどの日本のポップカルチャー関連グッズを天猫国際(Tmall Global)で展開する「トーキョーオタクモード」では2016年の「独身の日」セールの戦略として、2015年は全商品20%引きで販売したのを2016年は10%引きに割引率を下げる利益重視策をとりました。その結果、2016年の「独身の日」の売上高は前年と比べ微増、利益は2・5倍となったそうです。また、トーキョーオタクモードでは2016年4月から中国の保税倉庫の活用を開始しています。保税倉庫の利用によって送料が安くなるだけでなく、商品が手元に届くまでのリードタイムも短縮されて人気が上がり、2016年の「独身の日」のセール当日は保税倉庫扱いの商品のコンバージョン率は通常時の5倍にもなったそうです。
中国ECをリードする天猫国際(Tmall Global)
天猫国際(Tmall Global)には新たな購買層がどんどん流入し、そして細分化し、その嗜好も多様化しています。また、ショップ間の競争も熾烈です。2017年は、SNS、KOL、ライブ機能の活用がますます進化を遂げるでしょう。さらに新たに開発されているVR・AR等の技術によって、百貨店でのバーチャル店舗体験、アパレル分野ではスマホ上で商品と自分の画像を合成できるスマート試着、インテリア分野では仮想空間に購入したい家具を配置してみるなどのインタラクティブなショッピング体験が可能なプラットホームの提供も予想されます。また、越境ECでの90年代以降に生まれた若い世代の比重も増していくので、これら若い世代をターゲットにした新たな取り組みも見られるかもしれません。2017年も天猫国際(Tmall global)が中国の越境ECをリードしていくことは間違いなく、その動向からは目を離せません。