中国的ネット事情
海外から日本で普通に使っているインターネットサービスを使おうとすると使えないことがあります。例えばGYAOやHULUなどの国内限定の動画サイトですが、これは著作権の問題で海外からのアクセスをサービス提供側がシャットアウトしているからです。中国ではファイヤーウォールと呼ばれるインターネット検問システムが稼働していて、「政府が有害とみなす」サイトや情報への中国国内からのアクセスが制限されています。どのような基準で「有害」かどうかを判断しているかは明らかにはされてはいませんが、大まかな原則は次のとおりです。
中国きょうさんとうの一党支配に反対する勢力のサイト
てんあんもん事件、言論の自由、民主化関連、中国きょうさんとうやせいふに批判的な内容のニュースソース
ポルノ、ギャンブル、カルトなどの反道徳的なサイト
チベット独立、ウイグル独立関係
台湾のサイト
これらはあくまでも中国の政策ですので、かなり恣意的であって、都市によって状況が異なる、情勢によって変動があるといった一貫しない面もあります。なお、このファイヤーウォールを乗り越える手段もあるのですが、ここではそれを使わない一般の中国国内の中国人の目線で話を進めています。
では、具体的に規制によって全部または一部が閲覧・使用できないサイト・サービスを見ていきましょう。
グーグル(Google)の一連のサービス
フェイスブック(Facebook)
ツイッター(Twitter)
ライン(LINE)
インスタグラム(Instagram)
ドロップボックス(Dropbox)
フリッカー(Flickr)
エバーノート(Evernote)
PACIFIC POKER ポーカーゲームのオンラインカジノ。
WikiLeaks 告発情報を提供するサイト。
The Democratic Party アメリカの2大政党、民主党の公式サイト。理由は…??
FC2 BLOG ブログサービス
これらは、ほぼ完全にブロックされているようです。
ユーチュブ(Youtube)チベット問題をきっかけに規制されています。
ニコニコ動画
ウイキペディアWikipedia
ポストヘブンPosthaven
イギリスの国営放送・BBCの公式サイト
MediaFire 容量無制限のファイル共有データストレージサービス
これらは見えたり見えなかったり、ほぼ見えなかったり、100%ブロックというわけではなさそうですが、見えないときがあるというのは使えないと考えておいたほうがよいでしょう。
なお、ビジネスで使用する可能性のあるファイル転送サービスですが、いくつかあるうちで安定して使えるのは「宅ふぁいる便」のようです。
規制の理由
これらのサイトやサービスがなぜ中国では閲覧・使用ができないのでしょうか?それは、中国の体制維持のために当局を脅かす情報が流れないようにする、SNS等のツールでデモや大規模な集会が組織されるのを防ぐために規制するのです。ジャスミン革命(アラブの春)でSNSが市民間の情報発信や情報共有を促進させ運動を加速化させたことから、中国政府もそのようなことが起こらないようにという配慮からか、フェイスブックやツイッター、インスタグラムなどのSNSを国民の目には触れないようにしています。
ここまでのことは既にご存知、あるいは他のサイトでも紹介されているのでもう少し深堀りしてみます
狭い出入り口に殺到すると
インターネットはご存知のとおり、中国国内のネットワークと海外とをつなぐ出入り口があるから、中国国内のネットユーザーは海外のサイトを閲覧できます。中国と世界とのインターネットの接続は海底ケーブルによる通信が中心です。ERMCというヨーロッパからロシア、モンゴルを通じて中国につながるケーブル網がありますが、これ以外は基本的に海底ケーブル網で繋がっています。残念ながら現状ではこのゲートウエイが脆弱です。中国のインターネットユーザー数は2015年末現在で6億8,800万人、半年で2,000万人の増加ペースが続いています。もしこれらの膨大なユーザーが何かあるたびに海外の人気サービスに押しかけたりしたとしたらどういうことが起こるでしょうか?トラフィックを処理しきれずにサーバーがダウンしてしまうでしょう。海外の有名サイトをアクセス規制することで、中国の上流サーバーのシステムダウンを防ぎ、国内インターネットの安定性を保っている、あるいはそうせざるを得ないのだと思われます。検閲のため余分な迂回ルートを経由することもネックになっているはずです。ニコニコ生放送が海外から繋がらなくなった理由も、中国の金盾がニコ生を解禁→中国からの大量アクセス→混乱・迷惑→海外からアクセスは規制しよう、という流れだったのかもしれません。とにかく中国はユーザーの規模が大きすぎるのです。
摩擦を未然に防ぐ巧妙な仕掛け
他国のブログや掲示板、といってもターゲットはやはり目の上の瘤の日本ということになるのでしょうが、中国のネットユーザーが掲示板やブログのコメント欄などを悪意をもって荒らしたり、スパムを撒き散らしたりしてサーバーダウンさせたりするのを防ぐためにこのアクセス規制が機能しているのです。人民解放軍のサイバー攻撃疑惑は横に置いておいて、一部ユーザーが暴走して「愛国行為」の名の下で行う迷惑行為が炎上し、それが国際問題に発展したり、それがきっかけで逆に習近平体制側への批判につながらならないように当局側が微妙にコントロールしていると見てもいいのではないでしょうか。
こっちの障壁のほうが高い
中国国内に競合するサイト・サービスがあるものは基本的に規制される傾向にあります。
Google ⇔ Baidu (検索エンジン)
Facebook ⇔ 人人網 (SNS)
Twitter ⇔ Weibo(微博) (ミニブログ)
LINE ⇔ WeChat (メッセージングサービス)
YouTube ⇔ Youku (動画配信サービス)
Skype ⇔ QQ (インターネット通話・チャット)
Skypeは使えないことはないのですが、なぜかメッセージが到着するまでに時間がかかることがあるようです。アリババグループのジャック・マー氏と中国の最高実力者・習近平総書記との親密な関係、阿吽の呼吸はよく知られているところです。BAT(Baidu(百度/バイドゥ)、Alibaba(阿里巴巴)、Tencent(騰訊・TengXun/テンセント))と呼ばれるIT界の「3つの巨人」と競合する外国のサービスはなんらかの規制や圧力を受ける、あるいはグローバルではない中国版の代替サイトが作られる傾向があるようです。
メールが…
では、ビジネス上、何で苦労するか?というと、よく聞かれるのが、メールに記載されたリンクが開けない、クラウドでファイル共有ができない、出したメールが届いていないといったところです。中国との間で大量のファイル(設計図など)のやりとりに支障が出たりすることはよくあるようです。メールが届くまでに時間がかかったり、届かなかったりすることも時々あるようです。
見てもらえない!
これも中国のネット特有の問題なのですが、NGワードに注意が必要です。何がこれに該当するかは、やはり「政府が有害とみなす」という漠然とした基準によるのですが、「六四」「民主」などがその代表例です。例えば、Weiboの書き込みにNGワードが含まれていると、当局のチェックの前の段階でサイトの運営側によって削除されてしまったり、ひどい場合にはアカウントがブロックされてしまいます。例えば読者のみなさんのサイトやブログにたまたまNGワードが含まれてしまっていたりすると、中国の検索エンジンに拾ってもらえなくなる、上位に表示されなくなるというようなリスクがあります。何がNGワードになるかは時々刻々どんどん変化しています。さっきまで何でもない言葉だったものが突然NGワードになることもあるのです。
言論統制はどうなる?
2016年11月7日、中国は、国家の安全などに関わる事態では特定地域のインターネット通信を制限できる「インターネット安全法」を採択し、来年6月から施行することになりました。今年1月からはインターネットに関する規制も盛り込まれた「反テロ法」が施行されていて、これらはネット空間での言論統制の一環とみられます。この傾向は、IT界の「3つの巨人」BAT(百度・アリババ・テンセント)の発展に有利に機能しながら今後も続いていくと予想されます。BATが新たなサービスを展開すれば海外の元祖が新たな規制のターゲットになるかもしれません。中国でアクセス規制が実際にどのように行われているかをチェックすることは非常に重要なことです。どのサイトに金盾の規制が入っているか、何がNGワードになっているかをチェックできるサイトを紹介してまとめとします。
Online Censorship In China https://en.greatfire.org/analyzer