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中国×イノベーション 第6回 AI医療

中国の医療は、とても先進的とは言い難がった。日本人駐在員で、信じられないケースに遭遇した人は多い。彼らの話には、ほとんど誇張はない。本当に“医は算術”を地で行っていて、面白エピソードは山ほどある。しかし、その暴露は本稿の目的ではない。

前近代の様相だった中国の医療が、AIを得て、急速に変貌していることを描き出すのが目的である。ブルーグバーグの2019国家健康指数によれば、中国は169国家中52位である。日本は4位、米国は35位だ。この順位を上げられるかどうか。最新状況をIT巨頭テンセントと中国平安の取り組みから見てみよう。

テンセント“中国医師の家”

2019年5月、中国医師協会とテンセントは、戦略提携協議書に署名した。共同で「中国医師の家」というデジタル医療プラットフォームを建設する。

中国医師協会会長は、「これは協会にとって最初のプラットフォームではない。しかし、最も影響力の大きなプラットフォームとなるだろう。」と述べている。その意義は、会員に対する教育と訓練の情報化、各種サービス、医学知識の普及にある。

中国の医師の基層は、全科医師(家庭医師)30万人と郷村医師100万人にわかれている。これは十分ではなく、国家計画では15年後に、全科医師(家庭医師)を70万人に増やす。

そのため教育訓練環境の整備は、喫緊の課題だ。医学教育は、学校教育、卒業後教育、継続教育の3つだが「中国医師の家」は、学校教育以外の部分を強力にサポートする。IT巨頭のテンセントは医学界に深く食い込んだ。これまでの実績がものを言っている。

国家AIプロジェクト“騰訊覓影”

2017年11月、中国は4つ(現在は5つ)の国家AIプロジェクトの1つに、テンセントの医療映像“騰訊覓影”を選定した。

騰訊覓影は、人工智能と医学を結合させた“AI医学映像産品”である。コンピューター視覚とディープラーニング技術を用い、各種医学映像を分析、データを蓄積し、医師の診断補助、重大疾患の早期発見に用いる。

騰訊覓影のサイトには、乳腺癌、結直腸癌、子宮頸癌、食道癌、肺癌、糖尿病性網膜病変で高い診断成果を上げている、とある。今年6月には、眼底疾病検査のAIモデルを提示した。

8月には、騰訊は騰訊覓影の実績を発表した。騰訊覓影は、すでに国内100の三甲医院(500床以上、地域最高水準の総合病院)と提携し、AI医学ラボを建設している。そしてチェックした医療映像は累計1億枚を突破、患者90万人に対し、13万例の病変リスクを指摘した。このようにテンセントは診断側のAI化で先行した。また2014年以降、医療健康分野のベンチャー投資を、述べ41回にわたり行っている。

問診アプリ“平安好医生”

平安好医生は、保険会社から総合金融グループに成長した、中国平安の傘下企業である。メイン事業は、オンライン問診アプリだ。このカテゴリーでは、平安好医生、好大夫在線(21万の公立病院医師で構成)、微医(1900の重点病院で構成)が人気トップ3である。しかし、トップの平安好医生が70%のシェアを押さえ、頭一つ抜けた存在だ。なお好大夫在線、微医には、テンセントが出資している。

2018年末、平安好医生は1196人の専属医師団、5203人の外部契約医師、400の診療所、1300の体験センター、1200の歯科診療所を持ち、OMO(Online Merges Offline)の体制で対応している。

2019年8月には新たに、“私家医生(ホームドクター)”アプリをスタートさせた。中国移動、北京汽車、中信銀行など世界の大企業29社と提携、初日の売上げは3億元を突破した。私家医生は、全国100の有名医院と名医で組織された専門のチームが、24時間365日対応する。名医のセカンドオピニオン、オフライン病院の手配、慢性病管理、健康管理など全方位に医療健康サービスを提供し、インターネット+医療のホームドクター新時代を目指す。

平安好医生の2019年上半期の売上は、22億7000億元、前年比102.4%増だった。利益は2億7400万元の欠損だが、前年同期比38.4%改善している。登録ユーザー数は2億8900万人で、過去1年間に6130万人増加した。月間アクティブユーザー数は6270万人だった。

まとめ

AI化によって中国の医療は面目を一新しつつある。診断技術ではテンセントが、問診アプリでは、平安が飛びぬけた存在となった。もちろんこの両者以外にも、さまざまな試みが行われている。アリババは、阿里健康という子会社で、医薬品ネット通販を推進する一方、医療業務の改革を指向している。

いずれも新しいIT企業が旧い医療資源に働きかけ、プラットフォームに再構成し、新しい価値を創出している。日本にはこうした抱負をもった新しい企業はない。既存業界が強すぎて、それらを横断しよう、などの発想は出てこない。これは日本の産業界に共通する問題なのかも知れない。

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