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越境ECでも知らないうちにライセンス違反?中国語のフォントの利用には注意が必要!

ある日突然ライセンス料の請求通知が来る

北京北大方正電子は、北京大学の研究成果を産業化することを目的に、北京大学が出資して設立した企業であり、出資比率は100%となっています。現在、中国語のDTP(デスクトップパブリッシング)システム分野では、世界の市場シェアの80%を占めている大手中国語フォントベンダーです。
(出典:http://www.founder.com/about/intro.html
http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/~marukawa/founder.pdf[東京大学科学研究所スタッフ丸川知雄])

北京北大方正電子では、中国国家認証の標準フォントを制作および販売しており、現在、中国国内の多くのメディアや政府関係機関で利用されています。また、マイクロソフト社のWindowsやアップル社のmacOSにも標準搭載されているほどの広がりを見せています。

これまでのフォントの著作権を巡る動向

日本に住んでいるとそこまで気にしないものですが、中国ではフォントの著作権に関する訴訟問題が多いようです。T-mallやタオバオのサイトでECサイトを運営している人に対し、北京北大方正電子有限公司から「あなたのサイトは方正電子の字体をライセンスなしで使用しているので、迅速にライセンス料金を支払うように。支払わなければ訴える」という内容の通知が届くケースが発生しています。越境ECなどで中国のサイトに自社の商品情報を掲載する機会がある場合は、注意すべき点だと言えます。

英語などのアルファベットと比べ、中国語はフォントの元になる漢字が圧倒的に多いため、作成するのに相当な労力がかかることは理解できます。しかし、フォントパックを購入しているにもかかわらず、商業目的に利用したとして賠償金を請求される事態には不満を抱く人も多く、論争が起きているようです。

26文字で完結するアルファベットとは異なり、漢字の場合は約8000個ものフォントを作成しなければならないという背景があります。もっとも、この8000個の漢字すべてが日常的に使用されるわけではないため、すべての漢字をフォントにする必要性はほとんどないのですが、それでもフォント作成に相当な労力がかかることは事実です。この点に関しては理解できます。

この事案では、ECサイトなどで著作権を考慮せずに北京北大方正電子のフォントを使用した結果、ある日突然高額なライセンス料を請求されるケースが報告されています。請求への対応に困惑するという事例も多く、「このような通知を受け取った場合、どのように対応すれば良いのか?」という相談や議論がSNSやブログで頻繁に見受けられます。

北京北大方正電子は、これまでにもフォントの使用をめぐる訴訟を多く起こしてきています。よく知られている例として、2008年から2011年にかけて日用品メーカーであるP&G社との間で起きた訴訟事件が挙げられます。これは、P&G社がシャンプーなどのロゴに使用した「飄柔」の書体について、北京北大方正電子が著作権法違反であるとして提訴した事件であり、二審まで争われました。「飄柔」は中国人なら誰でも知っている定番のシャンプーです。どこのスーパーにも置いてあり、安価であるため、多くの中国人が利用しています。
(出典:http://j.people.com.cn/94476/6549244.html)

また、ゲーム「World of Warcraft」の中国語版において、北京北大方正電子のフォントが無断で使用されているとして、ゲームメーカーのBlizzard Entertainment(ブリザードエンターテインメント)社に賠償を求めた事件がありました。

この事件では、2012年5月に最高人民法院で判決が下されました。裁決の内容を要約しますと、以下の通りです。「文字データベースは、法的にはコンピュータープログラムに該当する」ということ、「フォントの使用が単なる意思伝達手段である場合には、そのフォントが著作権法上の美術作品に相当するかどうかに関わらず、著作権侵害には該当しない」ということ、そして「文字データベースに含まれる全ての文字が著作権法上で美術作品として保護されるとは限らないものの、フォントの一文字単位での芸術作品性については個別に判断する必要がある」というものでした。

簡単に言えば、特定のフォントを単に意思伝達の手段として使用する場合は問題ありませんが、美術作品として利用し、それを無断で商業的に使用することは許されない、ということです。「飄柔」のケースについて考えると、何とも微妙なフォント利用の例と言えます。「飄柔」という言葉自体は固有名詞であり、意思伝達のための使用とは言えません。しかし、シャンプーを購入する消費者が「飄柔」という文字を美術作品として認識しているかと言えば、そうではないでしょう。
(出典:http://www.court.gov.cn/wenshu/xiangqing-7147.html)

細かな法律論についてはここでは触れませんが、結果的にいずれの訴訟でも北京北大方正電子の訴えは認められませんでした。この訴訟では、P&Gが147万元(約2400万円)の賠償金を求められていました。P&Gにとっては驚くほどの額ではないのかもしれませんが、これがもし個人に対する訴訟であれば、非常に恐ろしい話です。この訴訟については、最高人民法院で司法判断が下され、一件落着したかのように見えました。

しかし、最近になって再び方正電子はEC業者をターゲットにし、フォントの無許可使用に対して厳しい態度を取るようになっています。これは、eコマースを利用する業者が急増していることや、ホームページを分析することでフォントの使用状況を容易に把握できるようになってきたことが要因だと考えられます。
(出典:http://www.huilingsh.com/429.html)

OS標準搭載のフォントでも無償とは限らない

OSに標準搭載されているフォントについては、フォントそのものを配布したり販売したりする場合には権利の侵害となりますが、ロゴデザインとしての使用やサイトでの商用利用に限っては権利侵害にはならないだろうというのが一般的な感覚ではないでしょうか。

北京北大方正電子では、フォントを商用利用する際のライセンス付与に関する方針を公表しています。同社によれば、開発したフォントを「免费字体(フリー書体)」「基础字体(基本書体)」「精选字体(精選書体)」の三種類に分類し、それぞれのライセンス取得に関する規定を明示しています。

さらに、ライセンス付与のタイプやその範囲に応じてライセンス料が設定されています。無償で使用できる「免费書体」に分類されているのは、「方正黒体」、「方正書宋」、「方正仿宋」、「方正楷体」の4種類のフォントのみです。

その他の「基本書体」および「精選書体」に分類されるフォントをビジネスで利用する場合には、すべて有償のライセンスが必要となるため注意が必要です。例えば、Windowsに標準搭載されている「微軟雅黒(マイクロソフト YaHei)」やmacOSに組み込まれている「蘭亭黒体(Lantinghei)」の著作権は、方正電子が所有しているため、同社の規定が適用されます。つまり、これらのフォントを使用する場合も有償のライセンスを購入する必要があります。

「微軟雅黒」や「蘭亭黒体」は「免费書体」には分類されていないため、代金を支払ってライセンスを取得する必要があります。北京北大方正電子は「フォントのデザインを最終製品として商用利用する場合は、ライセンス取得が必須である」という立場を堅持しています。そのため、フォントを越境ECで販売する商品に商業利用する際には十分な注意が求められます。
(出典:http://www.foundertype.com/index.php/About/bookAuth/key/my_sysq.html
https://www.sohu.com/a/196932089_607781)

ライセンス違反を回避するには

最近の中国で業界を賑わせている「フォントの著作権問題」は、決して対岸の火事ではありません。OS標準搭載のフォントだからと安心して使用していたところ、中国ではライセンス違反と判断される可能性もあるのです。

このような権利侵害問題の発生を回避するためには、現在使用しているフォントの利用規約を確認することが重要です。自社のオフィシャルサイトやECサイトのロゴなどをデザインする際に、ライセンス取得が必要なフォントを無断で使用していないか、改めて確認する必要があります。

ライセンス規定が不明確な場合には、フォントベンダーと協議を行い、商用利用に関するライセンスを取得することが求められるかもしれません。また、商用利用可能なフリーフォントを選択することで、ライセンス違反を回避する方法もあります。

北大方正電子は、著作権保護の姿勢において「品行方正」と言えますが、他社の商用利用に対して「慷慨大方」(寛大で気前が良い)とは言えなかったようです。

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